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「炊飯器なんて日系の家にあるような専用のものは有りませんが、レンジで一分チンしてご飯ならありますよ」
「おっ、いいもん有るじゃん!」
虎徹さんは目をキラキラさせて笑いながら、でも米は自分で炊いた奴がとびきりに旨いんだぜ!と笑うのだからそうなんですか、と良いながら僕も笑ったのだった。

虎徹さんのご飯は美味しいな、と思いつつ、だけどこのマヨネーズだけは頂けないなと出来上がったチャーハンに添えられたマヨネーズをとりあえず、自分の分のチャーハンから虎徹さんの皿に入れていれば、お前っ!と声が上がった。
「なんですか?」
 しれっとマヨネーズを移す為に使っていたスプーンをそのまま叫び声を上げる虎徹さんの口の中に突っ込むと、もごもごと虎徹さんは口の中のスプーンを(というか、マヨネーズだ)味わった後、開いた手で口からスプーンを抜いてなにやってんの!と僕に声を掛けた。
「何って、どう考えてもマヨネーズ多すぎでしょう!」
「あーもう、バニーちゃんわかってない!これに目玉焼きを置くの!ベーコンエッグの味付けしてないから、ここにマヨネーズが絶妙なんだって!」
 やっぱり子どものように、酷い酷い!と声を上げる虎徹さんに呆れつつ、だけど山盛りのマヨネーズは許せない!と声を上げれば、盛られたチャーハンに黄身が半熟のベーコンエッグが乗せられる。
「ぜってーマヨネーズ有ったほうが美味しいから!」
「そんなの虎徹さんだけでしょ!」
 言いつつ渡されて食べてみ、と言われたからそのまま手渡されたスプーンでマヨネーズが二人分の分量で乗せられたチャーハンと目玉焼きをマヨネーズを一緒に口に運べば、やっぱりマヨネーズの多さに、僕は顔を歪めた。
「どう考えても、マヨネーズ多すぎです」
 後ろから僕の様子を覗き見る虎徹さんを振り返えると、虎徹さんはケラケラと笑っている。
「ちげーよ、これは、こーして、こうやって!」
 良いながら、虎徹さんが僕の手の中からスプーンをひったくって、目の前のチャーハンをぐちゃぐちゃと半熟の卵を潰してかき混ぜていた。
「見た目が、すごい……」
「おまっ、そんな事言っちゃうのかよ!騙されたと思って食えよ!」
 言われながら、虎徹さんはスプーンでそのぐちゃぐちゃを掬う。
「ほらバニーちゃん口開けて、あーん」
「馬鹿じゃないですか!」
 馬鹿にしたようなそんな虎徹さんの言動に、僕はスプーンをその手から引っ手繰るように奪い取ると、自分の手で中身を口に運んだ。食べてみれば、なんてことない。見た目よりも美味しかったそれに、思わずもぐもぐと口を動かしながら虎徹さんを僕はじっと見る。
「どーよ」
 ごくん、と飲み込んでから僕は悪く無かったです。と声を上げれば虎徹さんは僕の手からスプーンを奪うとそのぐちゃぐちゃを掬って口に運んだ。もぐもぐ、と口を動かして、飲み込んでから、彼は声を上げる。
「うん、うまい!」
 自画自賛で笑う虎徹さんが妙におかしくて、僕は笑い声を上げてから、クロノスフーズのご飯が美味しいんですよ!と声を上げた。
「ちげーの!俺の腕がいいんですぅー」
 口を尖らせて、ぶーぶーと言う虎徹さんに、ははは、と笑いつつ冷蔵庫から冷やしていたビールの缶を取り出しながら、まあそういう事にしておきますよ、笑いながら僕は告げたのだった。

     *

 晩御飯を食べて、歯を磨いて、それからシャワーを浴びて、あとは寝る体制に入ったところだった。虎徹さんの朝は始発での帰省になるから、僕たちはそこそこだけ飲んで、結局消費仕切れなかった大量のお酒は多分僕がひとりでそのうちそのうちで消費していくんじゃないかななんて思いつつ、結局のところ一人になれば、ああ、そうか、もう明日から虎徹さんは居ないんだったな、と思い出してちょっとだけしんみりとしてしまう。
 結局僕の家に虎徹さんが寝泊りするようになっての間、寝るために使ったのはリビングの床で、そこにマットレスを引いた状態で男二人の雑魚寝で、自分の家だというのになんだか不思議な使い方をしてて自分の家じゃないみたいだった。
 虎徹さんに言わせれば、学校の合宿でこういうのあったろ?だったけれども、今まで体験してきた学生生活中も、アカデミー時代も合宿と言ってもベッドが常だったりしたのだから、ありませんよ、と答えれば、虎徹さんはマジかよ!と驚きつつ、俺は学生時代にこーやって雑魚寝してたりしたの!と言ってきたのだから僕は素直に驚いた。
「何そんなびっくりした声上げてるのバニーちゃん。世界ってもっと広いんだから知らないことも沢山有るじゃん?俺だってまだ知らない事いっぱいあるんだからさ!」
 そんな声を上げた虎徹さんに僕は、虎徹さんはあまり学がありませんからね、と声をあげれば、うっせー!と声を上げられて、小突かれて、ははっと僕は笑った。
 結局、そんな感じで当たり前のように床にマットレスをひいて一緒に寝るのがなんだか当たり前になってきたところで、彼はシュテルンビルトを去るのだ。
 しんみりしない方が難しい、なんて思っていれば、適当な寝巻き姿の虎徹さんはぼすんと走ってきてマットレスに転がった。
「なんか、現実味ねーわー」
 転がってからがばり、と身を起こした虎徹さんはそう声を上げてから、マットレスの上に大の字で天井を見ていた僕に、ねぇねぇ、と声を上げる。
「正直、なんか現実味ねえんだけど、そこんところどう思う?」
 彼の言わんとする事は自分自身のヒーロー引退の事なんだろうと思うと僕は虎徹さんに携帯貸してください、と声を上げた。マットレスの傍で充電器に納まってるそれを指差した虎徹さんに使っていいですか?と一言確認をして、そのまま彼の携帯であるスマートフォンを操作して表示するのはアポロンメディアの公式のヒーロー頁だった。
「まだ、日付が変わってませんから、公式発表が終わった中ですけども、貴方はまだ一応ヒーローって事になってますよ」
 表示させた画面を虎徹さんに渡せば、そうじゃないよ、と虎徹さんが声を上げる。
「別に、俺は正式にヒーロー辞めるってのが信じられないってのを言ってるんじゃないんだってば、バニー」
 転がった虎徹さんはそう声を上げると、ボタンを一つ押して画面を消して、そのまま腕を伸ばして携帯を再度充電器に差し込むと僕を見てへらっと笑った。
「俺、辞めてもヒーローだもん」
 言うと、虎徹さんは大きく伸びをした。それに習って僕も同じように転がる。
「スーツ、着てなくてもですか?」
「そう」
 ヒーローである証のような、顔を隠すあの服ですよ?と声を上げれば、虎徹さんはうん、と再び肯定の言葉を上げた。
「多分ね、俺は、死ぬまでヒーローなんだよ」
「能力が減退して、引退表明までしても?」
「それと、これは別。俺はこれからこの街を救うんじゃなくて、楓だけのヒーローになるの」
 ふ、と息を吐き出すような声に僕は虎徹さんの方を向けば、虎徹さんは穏やかな顔で天井をぼんやりと見つめていた。
 そんな虎徹さんにぱっと浮かんだのは僕の両親の言葉だった。そして確かに守られた僕がここに居ることを思い出した。
作品名:Average value is a top! 作家名:いちき