Average value is a top!
だけれど、何か違う、と妙なものを感じるが、穏やかに笑う虎徹さんにそんな言葉が言える筈もなく、ただ僕が発した言葉は一言だけだった。
「そうなんですね……」
「うん」
違和感が少しだけ心の中に沈んで、でも、確かに虎徹さんの言う様に僕を守るといった両親の記憶は確かにヒーロー像そのものの様な気がして、違和感を違和感だときちんと整理が出来ない。
ただ、僕が理解してるのはこの街を守るヒーローでなくなる虎徹さんがこの街から居なくなる事実だ。
「だけど、なんだか僕は淋しいんです、ね。今までみたいに簡単に会うことも出来なくなりますし……」
「ん?俺に会えないとバニーちゃんは淋しい?」
ぽろっと吐き出した言葉に虎徹さんは身を起こして僕を見ると、ふっと笑っていた。
言うんじゃなかった、なんて少しだけ思いつつ、でも実際今日以降の虎徹さんと一緒のプランなんて未定も未定で白紙だ。
「ええ、淋しいですよ。なんだかんだでヒーローになってから貴方とバディって名目で、仕事はずっと一緒だったんですから。それが虎徹さんは引退です、はい明日から居ません、じゃちょっとなんか呆気ないなって気がしますよ」
「何言ってんだかー」
転がったままで天井を見つめつつ、ぽつりぽつりと洩らすと隣でぼすんとマットレスが音を立てる。
「別に、もう二度と会えないわけじゃないし、大体お前も自分探しの為に一旦はヒーロー辞めるんだろ?」
「まあ、結局マーベリックに言われるままにヒーローになったのもありましたし、それ以外の道を僕は知りませんから、当分は自分のやりたいことも探しながら……生活しようと思いますしね。一応まだ僕はもう少しヒーローしてからになりますけれど」
「だったらさ、別に気が向いたらバニーちゃんは家に遊びに着たらいいんだよ、シュテルンビルトと違って、オリエンタルタウンはこう、のどかーな感じなんだしさ」
隣で転がる虎徹さんが僕にそんな声を掛けた。
「世界って狭いけど広いんだから、シュテルンビルト以外にもバニーちゃんが居るべき場所がどこかあると思うわけよ、俺は。それをこれからバニーは探すんだろ?疲れたときにはシュテルンビルトに戻れば良いと思うし、それでなければ、俺んところに寛ぎにこれば良いし。ついでに楓がヒーロー辞めたお前でもファンを続けるみたいだったら、一石二鳥だし?」
「虎徹さん、本音は最後でしょう……」
へへ、と笑う虎徹さんに呆れて僕は声を上げれば、まぁ、そうかもしれないなんて声が上がるのだから、僕はため息を吐き出して、貴方って人は……なんて呆れた声も一緒に吐き出せば、でもさ、と虎徹さんが声を上げる。
「淋しくなったら、おいで。ちゃんと歓迎するから」
その声に虎徹さんの方にごろり、と体を転がせば、真剣な目で言う虎徹さんが僕の視線と合わさるとふわんと笑う。
「だって、俺お前のバディだもん。たとえ、街を守るヒーロー辞めてもそうなんだって信じてるからさ」
優しい声が優しい顔で僕に向かってきて、僕もつられる様に笑った。
「虎徹さんが、僕の事そんな風に考えてくれているだなんてちょっと意外でした」
「失礼だなー!お前はー」
くすくすと虎徹さんは僕の言葉に笑いつつ僕は一言、ありがとうございますと声を上げれば、虎徹さんはお礼なんていわれる様な事じゃねーってば、と声を上げてから、僕の頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。
「僕は子どもじゃないですよ!」
思わず呆れたように声を上げれば、虎徹さんは少しだけぽかんとした顔を浮かべて、知ってる、と声を上げる。
「でも、バニーちゃんかわいいんだもん」
「何がかわいいですか!そしてだもん、ってなんですか」
呆れた声を上げれば、笑い声が返ってくるのだから、思わず僕は虎徹さんを睨んだが、気が付けばお互い視線を合わせて笑いあってたのだった。
作品名:Average value is a top! 作家名:いちき