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【シンジャ】秘蜜の時間【SPARK】

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(私がこんな事を考えているなんて、誰も想像してもいないでしょうね。今の姿を誰かに見られたら、彼女に気があると勘違いされてしまうんでしょうね)
 女物の服を着たいと思っている事を気が付かれてしまうのと、彼女に気があると勘違いされてしまうのとどちらが良いかというと、後者である。しかし、後者の状況にも出来るならばなりたく無い。恋愛関係の噂を今まで何度か立てられた事があるのだが、事実無根の内容を知らない所で話し盛り上がられるのは不快であった。再びそのような思いをしないで済むように、もう少し彼女の服を見ていたかったがそれを諦めてここを離れる事にした。
 私服を誂えろという事をシンドバッドから言われているというのにまだそれを誂えていないどころか、それを言われていた事を彼から言われるまで忘れていたのは、私服を誂えても着る機会が無いので無駄にしかならないと思っていたからだけでは無い。男物の服に全く興味が無かったからである。
 シンドバッドから誂えろと言われたのが女物の服であれば、喜んで誂えていただろう。そんな自分が異常である事は言われなくとも分かっている。分かっているので、その事を今まで一度も誰かに言ったりそんな素振りを誰かの前で取ったりした事は無い。
 女物の服を着たいという欲求は持っているが、女になりたい訳では無い。勿論、恋愛対象が同性という訳でも無い。単純に女物の服が好きでそれを着たいという欲求を持っているだけである。
 そんな欲求を元々持っていた訳では無い。幼い頃は服を選んで着る事ができる環境の中にいなかったので、服はただ体を包む存在でしかなかった。そんな自分が女物の服に興味を持つようになったのは、シンドバッドに出会い暗殺者を止めてからである。毎日のようにシンドバッドは違う女性を連れて歩いていた。そんな彼女たちを見ているうちに、彼女たちが着ている美しい服に興味を持つようになり、やがて自分も着てみたいと思うようになった。
 その事を考えると、自分がおかしな趣味を持ってしまったのはシンドバッドのせいという事になる。無論、シンドバッドだけの責任では無い事は分かっている。
 自分と同じ境遇に置かれて、自分と同じように女物の服を着たいと思うようになる者は殆どいないだろう。自分は特殊なのである。特殊な部分であるその事を他人に知られたりなどしたら、政務官の威厳を保つ事が出来無くなるだけで無く、好奇の目で人から見られる事になる。その事が分かっていたので、この事を今後も誰にも言うつもりだけで無く、女物の服に実際に袖を通すつもりは無かった。





01.incir

 執務室を離れ廊下を歩いて行くと、シンドバッドの執務室が見えて来た。自分たち文官が執務を行う部屋とシンドバッドの執務室以外にも、この白羊塔にはシンドバッドが謁見を行う部屋がある。謁見がある時はその部屋へとシンドバッドはいるのだが、それ以外の時は自身の執務室へといる。そこへと自分が向かっているのは、シンドバッドから呼び出されたからである。
 シンドバッドから呼び出されるのは珍しい事では無い。シンドバッドが王宮にいる時は、日に何度も彼の元へと足を運んでいた。急ぎの仕事を山のように抱えている時はシンドバッドの元へと行く時間が勿体無いと思う事もあったが、そんな状況にでもならない限りそんな事を思ったりしない。執務室の前まで行き閉まっている扉を軽く何度か叩くと、中からシンドバッドの声が聞こえて来た。
「ジャーファルだろ。入って来て良いぞ」
 声を出していないというのに、部屋を訪ねて来たのが自分だという事にシンドバッドは気が付いていた。シンドバッドの部屋を訪ねた時、声をまだ出していないというのに、やって来たのが自分だという事を彼から言い当てられる事が多々あった。
 声を出して無いというのにやって来たのが自分だという事が分かるのは、自分の気配がするからだそうだ。何故自分だという事が分かったのかという質問にそうシンドバッドは答えていたが、本当は扉を叩く音が聞こえて来るまで全く気配がしなかったので自分だと思ったのだろう。今は暗殺者では無くこの国の政務官なのだが、暗殺者時代の癖が抜けきらず、気を抜くと気配を消してしまっていた。普通は逆なのだが、出来るだけ気配を殺さないように気を付けながら宮中で過ごしていた。
「失礼します」
 そう言いながら扉を開け部屋の中に入ると、いつもと違う状態になっている部屋が自分を待っていた。
 シンドバッドの執務室の中は、布屋か仕立屋かというような状態へとなっていた。様々な色や素材の布が至る所に置かれていた。そんな部屋の中を驚きながら見ていっていった後、部屋の中にいる如何にも商人といった風貌の恰幅の良い男性の前で視線を留めた。部屋にいるのは笑顔を浮かべてこちらを見ている彼と、そんな彼の横に立っているシンドバッドのみであった。布を手に持って立っているシンドバッドの姿は、布を吟味している最中に見えるものであった。自分が部屋へと入るまで、布を彼は吟味していたのだろう。
「これはどういう事ですか?」
「この間仕立屋を呼ぶと言っただろ」
 シンドバッドから私服を誂えろという事を言われたのは三日前の事である。まさかこんなにも早く仕立屋がやって来るとは思っていなかった。シンドバッドが呼ぶという事を言っていた仕立屋がやって来るのは、まだ先の事であると思っていた。
「確かに言っていましたが、まさかこんなに早く王宮に連れて来るとは思っていませんでした。今日来る事になっていたのならば、今朝顔を合わせた時にその事を言っておいて下されば良かったでは無いですか」
「言っておいたら、お前を驚かせる事が出来無かっただろ」
 朝顔を合わせた時、仕立屋が来る事を彼が自分に伝えなかった理由を知り呆れた。
「はいはい、そうですか。では、早く済ませましょう」
「少しぐらい嬉しそうな顔をしても良いと思うんだが」
 投げ遣りな自分の態度を不満に思ったのか、そう言ったシンドバッドの態度は不満そうなものであった。そんな彼の態度を見ても心が動く事は無かった。
「まだ仕事が残っていますので、できるだけ手早くお願いします」
「ジャーファル」
 手短に済ませようと自分がしている事をシンドバッドが不満に思っている事は分かっていたが、ここに長居するつもりは無かった。
「私が服に興味が無い事は十分にあなたも知っている筈だと思いますが」
「それでも、こんな色の服が良いとかぐらいならばあるだろう」
 シンドバッドからそう言われて頭の中に浮かんだのは、先日シンドバッドと謁見する為に王宮へとやって来ていた女性が着ていた服であった。鮮やかな色をしたその服は、自分の心を掴んで離さない物であった。何処の職人に作って貰った物なのかという事をその服を着ている彼女に訊きたくなったのだが、そんな事を訊ける筈が無いので当然訊いていない。彼女が着ていたような服が着たいと思ったのだが、それを口に出す訳にはいかない。
「どんな色が自分に似合うのかという事が自分では分かりませんので、似合いそうな色を選んで下されば構いません」
「お前なあ……」