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【シンジャ】秘蜜の時間【SPARK】

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「服の事に詳しく無い私が口を出すよりも、専門の人間に完全に任せてしまった方が良い物が出来るに決まってるじゃないですか」
 その言葉はシンドバッドを黙らす事が出来る効力がある物であったようだ。まだ不満そうな顔をしたままであったが、それ以上その事に対してシンドバッドが何か言って来る事は無かった。
 仕立屋が部屋の外から呼び寄せた男に服の上から簡単に採寸をして貰った後、先程言った通り全て任せるという事を仕立屋に告げ、執務室へと戻るという事をシンドバッドに告げた。これ以上ここに居る必要もつもりも無かったのでそのまま部屋を離れるつもりであったのだが、部屋の中にある布が男性用の物だけで無い事に気が付いた事によって、部屋をそのまま出て行く事が出来無くなった。
「新しい侍女の服も一緒に誂えるつもりなんですか?」
「ああ、そろそろ新しい物にした方が良いだろうと思ったんで、ついでだから一緒に頼む事にしたんだ」
 シンドリアは一年中温暖な気候なのだが、一年中同じ服を王宮で働いている者たちに着せる訳にはいかない。年に何度か新しい服を王宮で働いている者たちに支給している。自分たち文官にはその時同じ服が毎回支給されているのだが、侍女たちには毎回違う服が支給されていた。
 彼女たちの服が毎回違うのは、王宮の中を華やかにする存在で彼女たちがあるからだ。
「それなら、事前に言っておいて下さい。その予算を誰が捻出すると思ってるんですか」
「悪かった。今度からちゃんと先に言っておく」
「以前もそう言っておきながら、突然仕立屋を呼んだじゃ無いですか」
 自分に何の相談も無く侍女の服を新しくしようとシンドバッドがしたのはこれが始めての事では無い。今まで何度もあった事である。服を仕立てる費用を捻出するのも自分の仕事であるので、服を仕立てる時は仕立屋を呼ぶ前にその事を自分に言ってくれという事をその度に言っているのだが、いつも相談も無しにシンドバッドは仕立屋を呼んでいた。
「そうだったか?」
「とぼけないで下さい」
 前回の事を全く覚えていないような態度でシンドバッドは言っていたが、記憶力の良い彼がその事を覚えていない筈が無い。覚えていながら覚えていない振りをしている彼を睨み付けたのだが、自分に睨み付けられている事を全く気にしていなかった。これ以上この事に対して怒っても無駄でしか無いので、先程から気になっていた事を訊ねる事にした。
「今回はどんな服にするつもりなんですか?」
「うむ。前回は赤みを帯びた黄色の布にしたんで、今回は青い布にしようと思ってる」
「そうですか」
 青といっても幅がある。そして、布には様々な柄や質感の物がある。シンドバッドはどの布を選ぶのだろうかという事を思いながら、部屋の中にある布を見ていく。
 布を見ているうちに、手に取って見てみたいと思うような布が幾つか見付かった。それらが服になった時の事を考える事によって、心が弾む。どんな服になるのかという事が気になる。
 シンドバッドが布を選びどんな形の服にするのかという事を仕立屋に指示をするので、良い物になる事は間違い無いだろう。
 今侍女が着ている服も良い物であるが、早く新しい服を見たい。見るだけで無く、それを着てみたい。夢見る少女のような顔で自分が布を見ている事だけで無く、そんな自分の姿をシンドバッドが見ている事に、新しい服の事で頭が一杯になっていた為気が付く事が出来無かった。



 仕立屋が王宮にやって来てから数日後、仕事が終わった後シンドバッドから呼び出された。
 呼び出された場所は執務室では無く、紫獅塔の中にあるシンドバッドの部屋であった。王宮の中には幾つかの建物があり、その一つ一つに名前が付けられている。紫獅塔という名前が付けられた建物は、シンドバッドの私的空間であるだけで無く、彼に近しい者の私的空間でもある。シンドバッドからそんな紫獅塔にある部屋を与えられている為、自分も紫獅塔で寝起きをしていた。
 シンドバッドの部屋に呼び出されるのは、執務室に呼び出される事ほどでは無かったが珍しい事では無かった。私室に呼び出されるのは、内密な話しがある時である。その事から自分に内密な話しがあるのだと思っていた。
 シンドバッドの部屋の入り口まで行き扉を叩き声を掛けると、シンドバッドの声が中から聞こえて来た。
「ジャーファルか。入って来て良いぞ」
「はい」
 シンドバッドの部屋の中は幾つかの部屋によって構成されている。入って直ぐの部屋はいつも通りであったので何も感じ無かったのだが、その部屋を抜けた先にあるシンドバッドがいる部屋を見て驚いた。シンドバッドの部屋の中には、先日シンドバッドの執務室を訪ねた時そこにいた仕立屋の姿があった。シンドバッドが居る部屋の中を見て驚いたのは、彼がいた事だけが原因では無い。部屋の中が、先日シンドバッドの執務室を訪ねた時のような状態へとなっていた事も原因の一つである。
 立派であるだけで無く美しい家具が並んでいる部屋の至る所に布が置いてあった。
「お呼びですか、シン」
 シンドバッドは新しい衣装を誂えるつもりなのかもしれない。そうでなければ、この部屋がこんな状態になり仕立屋が部屋の中にいないだろう。部屋がこんな状態になり仕立屋がこの部屋にいる理由は思い付いたのだが、何故自分が呼ばれる事になったのかという理由は思いつかなかった。
 自分が服に詳しく無い事を彼は知っている。意見を求める為に自分を呼んだとは思えない。
「どういったご用件でお呼びになったんですか?」
「お前に服を作ってやる為に呼んだんだ」
「……私にですか?」
 何故自分を部屋に呼んだのかという理由を知り驚いた。
「先日作って頂いたばかりじゃ無いですか」
「あれとは別に、お前が着たい物を作ってやろうと思ってるんだ」
 シンドバッドのその台詞を聞いた瞬間、冷たいものが背中を走っていった。
 今まで誰にも言った事の無い秘密を彼に知られてしまったのかもしれない。その通りであるのならば、どうしてその事を知っているのかという事が気になる。その事を知られるような行動を自分は取っていない筈である。今までの自分の行動を思い返していっている最中、部屋の中にある布が男物では無く女物のみである事に気が付いた。その事から、自分の想像している通り、シンドバッドが自分の秘密に気が付いたのだとしか思えなくなった。
 まだそうと決まった訳では無い。
 まだはっきりとシンドバッドからそうだと言われた訳では無い。
 勝手にそう自分が思い込んでいるだけという可能性もある。
「私が着たいもの? 着たい物と言われても、服に興味がありませんので何も浮かんで来ないのですが」
 動揺している事をシンドバッドに気が付かれてしまわないように、平然を装いながら何を言っているのか分からないという態度で言った。
「彼は口が固いから安心して良いぞ。俺も誰かに言ったりしないから安心して良いぞ。好きな布を選んで、好きな服を作って貰えば良い。……着たいんだろ? 女性が着る服が」
 シンドバッドの最後の言葉を聞いた瞬間、底の無い闇の中へと突き落とされてしまったような気持ちへとなった。