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【シンジャ】秘蜜の時間【SPARK】

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 思っていた通りであった事が、彼の台詞を聞く事によって確定してしまった。どうしてその事を知っているのかという事を訊きたい衝動に駆られたのだが、それをしてはいけないという事へと直ぐに気が付いた。その行動は、シンドバッドの言葉を肯定しているのと等しい行動であるからだ。自分が今取るべき行動は、シンドバッドの言葉を否定する事である。
「何を言ってるんですか。そんな訳無いじゃ無いですか」
 変な勘違いをされて迷惑しているというような態度でそう言ったのだが、シンドバッドを騙す事が出来る筈など無かった。
「誤魔化さなくても良い」
「誤魔化してなんかいません!」
「分かった。分かった。そういう事にしておいてやるから、好きな布を選べ」
 シンドバッドの態度は、自分が喧しく違うと言うのでそう言っただけで、本心からそう思っていない事を示すものであった。
「ですから、誤魔化してなどいません!」
「お前が選ばないなら、俺が勝手に選ぶぞ」
 全く自分の話しを聞いていない様子のシンドバッドは、腰を下ろしていた椅子から腰を上げると、部屋の中にある布を見ていき始めた。
「これなんかどうだ? お前に似合うと思うぞ」
「いい加減にして下さい、シン!」
 布を手に持って自分の方を見ているシンドバッドに自分の話しを聞かせようと、叫ぶようにして言うとシンドバッドが大きな溜息を吐いた。
「頑固だな」
「それは私の台詞です」
 自分のその言葉を聞きもう一度溜息を吐いたシンドバッドは、側にある円卓に腰を軽く預けた後胸の前で両腕を組んだ。
 床にキリムの絨毯を敷きその上に置いた座布団【ミンデル】に体を預けて部屋で過ごす者もこの国にはいるのだが、王宮にある部屋の殆どが足の長い椅子に座って過ごす様式の物である。この部屋も足の長い椅子に座って過ごす様式の物である為、シンドバッドは立ったまま円卓に軽く腰を預ける格好になっていた。
「そろそろ諦めて、認めても良いと思うんだが? 何故そこまで隠そうとするんだ。それを知った俺がお前の事を軽蔑するとでも思ってるのか? 今の俺を見たら分かるだろ。お前にそんな趣味があった事に驚きはしたが、軽蔑はしてない」
 こんな事を彼から言われたというのに、まだそれは勘違いであると言える筈が無かった。それでも、自分にそんな趣味がある事を認める事までは出来無かった。それは、この部屋にいるのがシンドバッドだけでは無いからだ。
「さっきも言ったが、彼の口が固い事は俺が保証する」
 仕立屋の方へと視線を遣っていると、そんなシンドバッドの声が聞こえて来た。仕立屋の方を見遣った自分の姿を見て、何故そんな趣味がある事を認める事が出来無いでいるのかという事に彼は気が付いたようである。
 シンドバッドがここまで言うという事は、信頼する事が出来る仕立屋で彼はあるのだろう。考えてみれば、信頼出来る仕立屋で無ければ、シンドバッドが紫獅塔にある私室に入れたりなどしない。紫獅塔は王と王に近しい者の居住空間である為、その中に入る事が出来るのは、王の許可を得た者と限られた侍女だけであった。
「……分かりました、あなたの言葉を信じます。シンの思っている通りです。どうしてその事をあなたが知っているんですか?」
「採寸をする為にお前を部屋に呼んだ時、侍女の新しい服を誂える為に持って来て貰った布をじっと見てただろ? その姿を見て気が付いたんだ」
「理由はそれだけ……なんですか?」
 シンドバッドが挙げた理由は、たったそれだけの事と思ってしまうような内容のものであった。他にも理由がある筈である。否、他にも理由があって欲しかった。
「ああ」
 シンドバッドの返事を聞く事によって、そんな些細な事が理由で断言を彼がしていた事が分かり、それを知っていれば認めたりなどしなかったという事を思った。そして、認めてしまった事を後悔した。
「そんな理由で決めつけて。違ってたらどうするつもりだったんですか!」
「実際にそうだったろ」
「そうですが……」
 シンドバッドの言う通りなのだが、そんな些細な理由で断定しないで欲しかった。
「布を見詰めるお前の姿は、まるで恋を夢見てる少女のようだったぞ」
「な、何言ってるんですか!」
 笑い声が混じった声でシンドバッドから言われた内容は、自分の体温を一気に上昇させるものであった。恥ずかしさから頬だけで無く耳まで真っ赤にしていると、こちらを見たままとなっていたシンドバッドが目を細めた。
「そこまで着たいなら着させてやろうと思って、仕立屋を呼んだんだ。体裁など気にせず好きな物を頼めば良い」
 体裁を気にせずにいる事など出来無いとシンドバッドの言葉を聞いて思ったのだが、その言葉を言う事は出来無かった。それだけで無く、そんな気を遣う必要は無い。そんな物を作る必要は無いので仕立屋には引き取って貰ってくれという事を言う事も出来無かった。それは、仕立屋に服を仕立てて欲しいという気持ちを持っていたからである。
 先程部屋の中を見た時気になった布が幾つかあった。それで作った服を着てみたいと思いその布を見ていた時、シンドバッドの視線を感じた。シンドバッドは自分の気持ちを見透かしているかのような顔でこちらを見ていた。それは、自分の思い込みなのかもしれない。それでも、そんな風に見えてしまった事により、落ち着き始めていた鼓動が再び激しくなり顔が熱くなった。
「ジャーファルの布選びを手伝ってやってくれ」
「分かりました。さあさあ、気になった布を手に取って下さい」
 自分たちの話が終わるのを黙って待っていた仕立屋からそう言われ幾分か戸惑ったのだが、結局気になっていた布を手に取った。





02.lare

「それでは、私はこれで失礼します」
 部屋の中にある椅子へと腰を掛けていると、仕事を終わらせ部屋の片付けを終わらせた仕立屋が、シンドバッドと自分に対してそう言って部屋から出て行く。仕立屋の姿が部屋から無くなった瞬間、波のように疲れが押し寄せて来た。
「……はあ」
 先日も同じように仕立屋に服を頼んでいる。その時は全く疲弊する事は無かったというのに、こんなにも今疲弊しているのは、秘密にしていた事をシンドバッドに知られてしまい精神的に打撃を受けたからだけでは無い。真面目に服の布を選び服の形を仕立屋と考えていたからだ。
 最初は乗り気では無いという態度で布を仕立屋と選んでいた。勿論、本心からそう思いそんな態度で選んでいた訳では無い。そんな態度を取らなければ羞恥に耐えることができないので、そんな態度を態と取っていたのだが、いつの間にかそんな態度を取る事など忘れて真面目に布を選んでいた。布選びが終わりどんな形の服にするのかという事を決める頃には、積極的に仕立屋に意見を述べるようになっていた。
 周りが見えない状態にその間なっていたので気が付かなかったのだが、その間もシンドバッドは部屋にいたので、彼にその姿を見られていたという事である。そう思う事によって恥ずかしくなるだけで無く、先程までの自分の行動を後悔した。しかし、後悔しながらもどんな風に出来上がるのかという事を楽しみにしている自分がいた。
「どんな服が出来上がるのか楽しみだな」