ルック・湊(ルク主)
六花
「ルック!!ルック、まだ寝てるの!?珍しいねっ、でも起きて!!」
ルックが寒さのあまり、目が一応覚めても、だらだらと惰眠をむさぼっていたらものすごい勢いで湊が入ってきた。
そしてルックの寝ているベッドにダイブする。
「・・・ちょっと・・・まだ早いじゃない・・・。ていうか、君がそんな風なら鍵、とりかえすからね・・・。」
「えっ!やだっ!って、そんな事はいいからー、起きてよっ。」
「・・・何・・・。とりあえず寒いからまだ起きたくない・・・。」
「いいよ、じゃあ宿に泊まってる詩遠さん起こしてくるもん!詩遠さんと一緒に・・・」
「で、何?」
湊がムゥ、とむくれ、昨日にビクトールらと酒盛りをして珍しく宿に泊まっているらしい詩遠の名前を出して喋っていると、“すでに起きているけど何か?”的な表情をして身だしなみの最後の腕のところを留めているルックがいた。
「・・・えっと・・・。あ、ああ、うん。あのね!!雪!!雪降ってるんだ!!積もってるよ、ちょっとだけだけど!」
「・・・雪?」
「・・・え?あれ?ルック、雪知らないの?」
「いや、バカにするな。雪の名称くらいは知っている。でも、まぁ、うん。見た事は、ない、な。」
トランは南の方に位置するからか、冬でも雪は降らなかった。そして・・・ハルモニアにいた頃は・・・外をちゃんと見た事がなかった。
「そうなんだ?トランでは降らないんだね。でもここでも降るかどうかは知らなかったや。」
えへへ、と湊が言った。
「?君はこの国の人間だろ?・・・あ、そうか・・・。ごめん。」
ルックは言ってしまってから気づいた。
湊はもともとはハイランド領の出身だった。湊が生まれ育ったキャロの街は、元をただせば都市同盟の土地だったのかもしれないが、湊の育ての親、ゲンカクが自分の芯を通した結果、ハイランドの領となった街であった。
「ああ、ううん、謝る事なんて何もないよ!でもまあ、どのみち都市同盟も広いからねー。上のほうと下のほうじゃ、気温も多分だいぶ違うと思うよ。それにうん、キャロの街はだいぶ北にあったからね。冬はよく雪、降ってたなー。懐かしい。」
湊が幸せそうな、なつかしむ表情をした。昔を思い出しているのであろう。
「ルック見た事ないなら丁度いいよ!雪、見に行こうよ!」
「・・・寒いから、いい。」
ルックは何気に寒さにはあまり強くなかった。
「えー、そんな事言わないで。あたたかいコート、用意するから!!ね?僕、ルックと一緒に雪、見たいんだ。」
「・・・分かったよ・・・。でも、ちょっとだけだからね。」
ルックが渋々そう言うと、湊はとても嬉しそうに笑った。
そうして2人で外に出る。
・・・思ったより、寒く、ない・・・。
とりあえずルックはそう思った。雪が積もると、少し暖かく感じるものなのか?
上を見上げるとたくさんの雪が降り注いでくる。やたら静かな中、降り注いでくるそれらは、ルックにとって妙にもの寂しいものだった。
「綺麗だねぇ。」
湊がルックの手をつないだまま言った。・・・綺麗、なもの、なのか・・・?
「・・・六花・・・。」
「え?」
「雪の別名。結晶が六角形だからだとか言われてる。りっか、とも、ろっか、とも呼ぶらしいけど。」
「へぇ!綺麗な名前だ。素敵だね。」
・・・そうだろうか。同じような六角形の粒が落ちてくるだけ。空気中で製作されたクローン。
「僕はそういった知識はなぁんもないんだけどね。1つ知ってるよ。じいちゃんが教えてくれたんだ。雪の結晶ってね?」
「ん。」
「同じように見えて、実はどれも全然違うんだって。1つとして同じものは、ないの。空の上で同じ条件で作られるのにね、下に落ちてくる段階で、色々な環境によって、みんなそれぞれ違う形になるんだって。」
湊は空を見上げながら愛おしげに話す。ルックは胸の奥がトクン、と鼓動したのが分かった。
「それ、じいちゃんから聞いた時は、へぇって思った。僕達と一緒だねって。兄弟とか双子とかで生まれてきたとしても、育ってきた環境や周りの人の影響とかと、本人の持って生まれた性質とが混ざりあって、そうして出来上がる、僕達と一緒だね、って。だからね、僕、雪の結晶って好きなんだ。1つとして同じ形がないなんて、なんだか愛おしいよね?」
「・・・」
鼻の奥がツン、と痛い。なんだろう。喉からなにかこみあげてくるものがある。目が、なんとなく、熱い。
「・・・ルック?どうしたの?」
黙っているルックに湊が話しかける。
僕は・・・これは・・・。なんてこと。初めて知った。つ、と湊から顔をそらせてルックは思った。
これは。
っでも嫌だ。湊の前で、見せたく、ない。こんな情けない姿、見せたくない。
その時、いきなりルックの顔に雪の塊が飛んできた。
「っぶっ!!」
「うわ。」
雪の塊はルックの顔面にあたり、落ちていく。ルックの顔は濡れてびしょびしょになった。
「あはは、ストライク。俺、コントロールなかなかやるよね?」
ルックが濡れた雪とともに涙をぬぐうと、雪が飛んできた方向から声がした。
「っあ、詩遠さん。」
「やあ、おはよう、湊。楽しい朝だね。」
「おはようございます!わー。詩遠さんが雪で楽しむなんて。なんかレアだ。」
「そうかい?俺も雪はそうそう見た事ないんでね。つい。やあ、ルック。顔洗う手間、省けただろ?」
「・・・言いたい事はそれだけかい?言っておくけど、もう顔は洗ってたんだけど。」
「おっと、ここで切り裂きはヤボだぜ?あっちでさ、ちらほらと皆が出て来てる。雪合戦?なんかそんなん、やるみたいだよ?勝負はそれで。」
詩遠はニッコリとそう言った。
「わあ、そうなんだ。行こう、ルック。」
「分かった分かった。とりあえずそんなにそわそわするくらいなら、先に行きなよ。僕は走ってでもやりたいほどじゃない。」
「もー。分かった。ルックも詩遠さんも、早くね!」
湊は楽しそうに笑いながら駆けて行った。それを見送りながら、ルックはボソリ、と言う。
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ