ルック・湊(ルク主)
決戦
湊は広間でシュウと向き合っていた。
「湊殿。王国軍はミューズを捨て、ハイランドに引き上げました。しかし、体勢を立て直したら再び攻めてくるのは確実でしょう。・・・同盟軍の軍師として助言いたします。今こそ、ハイランドに攻め込み全ての争いの元を断つべきです。」
「争いの元・・・」
「ハイランドと都市同盟は互いに大きくなりすぎました。北にはハルモニア神聖国、南にはトラン共和国やファレナ女王国がひかえ、東には大海が広がり、西は荒れ果てたグラスランド・・・。この地で生き残るには、戦う以外に道はなかったのです。それは歴史が証明しています。人の知恵にはおのずと限界があるのです。」
「・・・。」
「湊殿。ハイランド侵攻の命を下して下さい。」
「・・・。」
「心を決めかねますか?私はあなたがリーダーとして、多くの人を率いる者として、正しい選択をしていると、信じています。」
湊は目を閉じた。キュッを唇を噛んでからまた、目を開く。
「・・・分かった。ハイランド侵攻を、行う。」
「ありがとうございます。湊殿。すぐにも準備を整えさせます。」
そう言ってシュウは広間から出て行った。湊も少しその場に立っていたが、同じように出て行く。
だが、出たところでばったりと倒れてしまった。
そして湊はまた、ある光景を見ていた。
どこか知らない広間。大勢の・・・ハイランド兵。
その者らを見下ろすように、階上ではクルガンやシード、レオン、そしてジョウイがいた。
台座のようなところには皇女ジルが横たわっている。
クルガンとシードが演説をしている・・・。まだ、同盟軍にはわれらの軍勢はおとっていない、と。
そして。
「ハイランド王国、ブライト王家の名にかけて勝利の願いをこめ・・・我がもっとも近しき者を・・・最愛なる者を・・・。“獣の紋章”よ、我が妻、ジル・ブライトの血を、そなたに捧げる!!」
ジョウイがそう述べ、そしてナイフを突き上げ、横たわるジルの腹部めがけて、突き立てた。
な・・・に・・・?この儀式・・・?ジョウイ・・・??
そしてジョウイはそこから立ち去る際にレオンにボソリと言っていた。
「人形の後始末を頼みます・・・。」
「出来はいかがでしたかな?」
「よく出来ていた。・・・出来すぎだ・・・。」
そう言うと、ジョウイもその場に崩れ落ちた。
人形・・・なんて悪趣味な儀式・・・。ていうか、ジョウイ・・・やっぱり・・・君も・・・。君もよく倒れていたのだろうか・・・?大丈夫なんだろうか・・・?やっぱりこの紋章のせい、なんだ、よ・・・ね・・・?
そして視界が真っ暗になったかと思いきや、不意に湊は意識が戻った。
ぼんやりと周りを見渡せば自分の部屋のベッドに眠っている様子。そしてそのベッドを囲むように腐れ縁達やルックがいた。
「大丈夫か?あんまり脅かすなよ。フリードなんか死にそうな顔してたんだからな。」
ビクトールが声をかける。
「そんな!私は湊殿が倒れていたので、驚いて・・・」
どうやら最初に見つけてくれたのは、このフリード・Yらしい。
「ハイランドにこれから攻め入るってのに・・・、しっかりしろよ、湊。もう少し、もう少しでこの戦いも終わりなんだから・・・。」
フリックがそう言いながらも心配げな様子で湊を見る。
「じゃあ、とりあえず俺達は戦いの準備があるからな。お前はゆっくり休んでおけよ・・・。」
ビクトールがそう言って、ルック以外の者は部屋から出て行った。
「・・・皆に心配・・・かけちゃった・・・。」
「・・・それは皆が君を大好きだからだよ。でも、ほんと・・・無理は、するな。」
「・・・うん。」
「じゃあ、もう休みなよ。」
「うん・・・あ。」
「何?」
湊はベッドから起き上がった。
「倒れてたから、結局シュウさんと準備後の打ちあわせしてない。」
「ちょ・・・仕方ないだろ、もうそれは明日に・・・」
「大丈夫だよ、もう全然平気だもの。ちょっとだけ。ちょっとだけ行ってくる。」
「・・・仕方ないなぁ。じゃあ僕はここで待ってるから。遅かったら無理にでも迎えにいくからね。」
「うん!待ってて!」
湊はニッコリと嬉しそうにルックに笑いかけると部屋から出た。階下に降りたところで、部屋にアップルが入って行くのが見えた。
「・・・?なんだろう・・・。」
だがきっと明日の戦いの事に違いない、と湊は部屋の外で様子をうかがった。
「シュウ兄さん・・・。」
こもってはいるが、アップルの声が聞こえる。
「なんだ、アップル?」
「私がミューズに攻め込む策を出した時・・・シュウ兄さんには、負ける事が分かっていたのではないですか?」
「ああ・・・。良くても勝つ確率は五分だったろうな。」
「・・・・・・では、なぜあの時・・・」
「勝てばよし、負けたとしても真の作戦の目くらましになる。こちらが焦っていると思わせられる。それで、十分だと思ったのさ。お前とクラウスがいれば、被害は最小で抑えられると考えていたしな。」
「・・・。・・・シュウ兄さん・・・・・・私は・・・私は・・・シュウ兄さんの力にはなれないのですか・・・」
「・・・。」
「・・・ごめんなさい・・・失礼します。」
「アップル。」
「はい。」
「そのテーブルの上にカードが3枚ある。その中の1枚をとってくれないか?」
そして間があった。
「何と書かれている?」
「火・・・・・・それだけです。」
「・・・そうか・・・もう行っていいぞ、アップル。」
「はい・・・お休みなさい。」
湊がドアの前に立っていると、アップルが出て来た。湊がいるのに驚いている。
「湊さん・・・明日は戦いです。そろそろ休んだほうがいいですよ。」
そして去って行った。
湊はとりあえずそのままシュウの部屋に入った。
「・・・シュウさん。」
「湊殿・・・。もう大丈夫なんですか・・・?」
「うん。ごめんね。あの、明日の事で何かあるか、と来たんだけど・・・。」
「いえ、とりあえず今は何もお気になさらず、ぐっすりと休んで下さい。」
「そっか。うん、分かった。お休みなさい。」
「お休みなさい、湊殿。」
湊は部屋を出る。なんとなく、シュウが何かを考え込んでいるような気がした。
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ