ルック・湊(ルク主)
聖戦
「生きて戻ってきて下さい。お願いします。あなたには、まだまだやるべき事が残っています。」
同盟軍がルルノイエに向かっている時に王国軍が現れた。敵将はレオン・シルバーバーグ。こちら側はシュウの指示により、シュウとビクトールの手勢が残り、湊らは他の王国軍に向かって突撃していった。
レオンはシュウが何かの策略を用意している事を悟る。だが軍師であるシュウが危ない状態に身を晒すはずかない、と森に伏せていたシュウの軍へと突撃していく。
すると、そこにビクトールが火を放つ。レオンの隊はまんまと飲み込まれてしまった。シュウの隊以外の同盟軍と戦っていたクルガンやシードの隊は王国領へ撤退していく。湊はその光景を離れたところで見て、唖然としていた。
そして。
炎の海の中、レオンがシュウに近づいた。
「久しぶりだな、シュウ。まともに顔を合わせたのは何年ぶりだ?」
「忘れたよ。なにぶん、昔の事だからな。」
レオンはいまいましげにあたりを見た。
「小僧が・・・。貴様のような男が、なぜこのような下策を。自らの命をかけるなど・・・。」
「まともな方法では、あんたにすべて読まれるからな。」
「・・・それだけでは・・・あるまい・・・。」
「まあな・・・。命をかけるなんて、下らぬ事にも価値を見出せる場合もある。それを教えてくれた娘がいる・・・そういう事だ。」
そこに同盟軍の者達がいれば、皆がナナミを思い出したであろう。いなくなって尚、ナナミは皆に影響を与えた。
「つまらぬ・・・そのような事で・・・。聞け、小僧。歴史は自然なるがまま、流れるのではない。時に人の手をかし、動かしてやる必要がある。より良き歴史の為、時に小さな不幸を生み出す事もある。だが、それを恐れるなど・・・下らぬ事・・・。」
そう言ってレオンは踵をかえし、炎の中、歩き去ろうとした。
「その為に、赤月帝国が滅びるのに手を貸し・・・今、ハイランドに手を貸しているというのか?」
「・・・この地にはハイランドの強力な支配こそが必要なのだ。まったく・・・貴様もそうだ!才がありながら、下らぬ事に情を動かされる。わしから見れば、屑そのものだ!!」
吐き捨てるように言ったレオンに、シュウは少し詰め寄るようにして、言い放った。
「俺は、神になどなる気はない!!ましてや、それを気取るなど!!!」
その時、2人の間に、燃えた木が倒れてきた。炎はますます激しさを増し、2人を飲み込んでいった。
湊らがその場に着いた時、そこは勢いこそなくなってはきているものの、まだまだ燃え続けていた。
湊はふらり、とその燃え盛る場所に少し近づく。そしてそっとルックに止められていた。
背後ではアップルが“うそ・・・シュウ兄さん・・・。まさか・・・あの時のカード・・・”と呟いている。そんなアップルに、フリックが励ますように声をかけていた。
そしてその炎の中に駆け寄ろうとしたアップルをフリックが止める。
「だって!!シュウ兄さんがっ!!」
「アップル。軍師がむやみに感情をあらわにすべきではないな。」
そこにシュウの声が聞こえた。皆は一斉に声のしたほうを見る。するとシュウがビクトールと共にこちらに近づいてきていた。
「シュウ・・・さん・・・。」
「シュウ兄さん・・・。」
湊とアップルが呟いた。
「見込み違いだ。お節介やきが一人いたのでな・・・。すでに、俺の役目は終わったというのに、つまらぬことを・・・。」
「そりゃないぜ、死ぬ気で助けに行ったのによ。」
ビクトールが苦笑する。2人とも命に別状はないものの、やけどなどはやはり負っている様子だった。
「ほんとだね。師匠の二の舞でもふむ気かい?それのせいでどれほど当時、詩遠がショックを受けていたか。あんたは湊にそんな思いをさせる気だった訳?まったく情に熱い軍師ってのは、やっかいだね。」
ルックが言う。シュウは湊を見た。湊はなんとも言えない表情をしていた。
「・・・申し訳ありませんでした、湊殿。だが、策はこれしかなかった。私は・・・」
その時湊がシュウに飛びつく。
「・・・良かった・・・無事で・・・良かった・・・シュウさん・・・。」
痛いほどにギュウ、と抱きしめられ、シュウは、あのシュウとは思えないほど優しい表情で湊を見下ろす。
「湊殿・・・。・・・。では、すぐにでもルルノイエに向かいましょう。アップル、ハウザー将軍に伝令を出せ。後はまかせたぞ、アップル。俺は少し疲れた。休ませてもらう。」
そうして同盟軍はルルノイエに向かって王国領に突入していった。
王国軍はルルノイエの周りを固めていたが、同盟軍の勢いにおされぎみであり、途中、ユーバーが潮時だと、文字通り消えた。そして同盟軍は王国軍の防衛網を突破し、ルルノイエ内部に突入した。
そして冒頭のセリフをアップルが湊に言う。湊は黙って頷き、少数隊で街を駆け抜け、王城を目指した。
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ