ルック・湊(ルク主)
帰宅
“湊!湊!”
何も見えないし聞こえない。
だって僕は。
ナナミ。ジョウイ。僕は何の為に、戦い、逃げ、そしてまた戦ってきたんだろう。
国の平和?皆の笑顔?
だって、そこに君達がいないのに?
あれほど渇望してやまなかった君達との時間は・・・もう永遠にとれない。
幸せだったのに。
どんな小さなことだって、君達と一緒に過ごし、笑いあえていた事が、僕は幸せだったのに。
戦って、戦って、戦って。
たくさんの人を犠牲にしてでも戦って、それでもいつかは、と思っていた。
だのに、得られたものは、何。
だってそこには君達がいない。
どうしたらいいの?
ナナミ、君の酢豚が恋しいよ。ねえ、お姉ちゃんて、呼ぶから・・・。
ジョウイ、もう会いたい。ねえ、人参、いくらだって食べてあげるから・・・。
だからお願いだから・・・。
もう声を聞く事は出来ないの?笑顔を見る事は出来ないの?
そんな世界ならいらない。消えればいい。いや、むしろ僕を消して下さい。君達のところにいきたい。
暗闇の中、声が頭にうっすらと響く。誰の声?
・・・ああ、もしかしたら紋章の声、なの、かな・・・?
この忌々しい紋章が完全となったせいか、なんとなくざわついた感じがするもの・・・。
“頼む・・・君だけは・・・闇に落ちないでくれ・・・どうか・・・”
なぜ?なぜ僕だけが闇に落ちたらいけないの?
あの2人に会えるなら、僕はどこにだって行く。他は知らない。それのどこがいけないの、魂喰い?
“湊・・・頼む・・・戻ってきて・・・どうか・・・あの色とりどりに輝いていた君に・・・”
なぜ?なぜ僕は闇にいてはいけないの?
戻ってどうすればいいの?あの2人がいない世界で、僕は何のためにいればいいの、風の化身?
立ち直ってみても・・・ナナミだけでなく・・・今度はジョウイまで・・・。
それならもう、立ち直る必要なんて、ないじゃない。いらないもの。2人がいない、そんなとこに・・・いたくない。
だから、もう、黙って。
“湊、約束じゃないか・・・まだ僕は・・・君に、お帰りと、言えていないっ”
・・・お帰り?約束・・・?
誰と・・・?
僕は誰と約束、した・・・?
・・・誰に、ただいま、と言う必要が・・・?
だって、ただいまって、言う人は・・・死んじゃったよ・・・?
誰・・・。
“でも・・・ルックがね、ギュっと僕をつかんでくれたから。ものすごく痛くて苦しかったココがね、なんていうかな、変わらず痛いんだけど・・・でも治療されたっていうのかな、うん、助けられたの。ありがとう、ルック・・・。ああやって触れてくれただけで。別に何も言ってほしい訳じゃないよ・・・何かして欲しい訳じゃない。結局立ち直るのは自分の力でしかないから”
・・・これは誰の言葉だっけ・・・?
・・・ああ、そうだ、自分が言ったんだ・・・。
おこがましい。
自分の力?
そんなもの、どこにもないのに。
・・・。
・・・ル・・・ック・・・?
・・・ルック。
ああ、そうだ。
思い出した・・・。
僕は・・・ルックと約束、した。ルックがお帰りって、言ってくれるんだった・・・。
僕はただいま、って・・・。
そうだ・・・ずっと聞こえていた声は、ルックや詩遠さんの声だった・・・。
ルック・・・。
ああ、なんてこと、ルックの事を忘れているなんて。
そんな世界、いらないなんて・・・。ルックがまだいてくれるのに。ルックが待ってくれているのに。
なぜ忘れる事が出来たんだろう。
こんなにも大切な人なのに。かけがえのない人なのに。
なんで忘れる事なんて、出来たんだろう。
・・・会いたい。
ルックに会いたい。
会い、たい。
ごめん、ナナミ、ジョウイ、君達のところにはまだ行けなかった。だって僕にはまだルックがいてくれた。
ねえ、ナナミ、笑ってくれる?
ルックや、そう、ルックや詩遠さんや他の皆と笑って過ごす僕を、笑ってみていてくれる?
ジョウイ、君とも約束したようなものだよね?
僕は・・・君と共に望んだ、平和な国を、作っていけるよね?応援してくれる?
どうか・・・勝手なお願いだけど、でもどうか、見守っていてね。大好きなナナミ、ジョウイ。
ルック・・・ごめんなさい・・・大好きなルック・・・。今、ただいまって、言うから、ね・・・?
様子を見に行ったルックと詩遠に連れられて戻ってきた湊は抜け殻のようだった。
そして何も話さない、笑わない、食べようともしない湊の様子を知っているのは連れて戻った2人とシュウや市長たち、そして腐れ縁の2人だけだった。
ただ詩遠とルックの様子がおかしかった為に、まだ同じように残っていたシーナもすぐに異変に気付いた。
そんなシーナに聞かれ、お前なら、と詩遠が簡単に話した。
他の皆は、まだ気付いてはいない。既に城を旅立った者もいるがまだ残っている者たちも、シュウがうまい事話しているのか、とりあえずは気付いてはいなかった。
誰の声にも反応せず、点滴だけで生かされているような湊を見ているのは、その様子を知る誰もが辛かった。
建国の件をそのままにしておくわけにはいかなかったが、誰もがそんな事そっちのけで湊の回復を願っていた。
詩遠とルックは出来うる限り湊の傍にいた。
特にルックは本当に湊の傍を離れる事なく世話をし続けていた。絶えず何か話しかけているようであり、それがまた、痛々しげであった。
「・・・ク・・・」
「!?」
「ック・・・。ごめ・・・」
「・・・み・・・な、と・・・?」
「・・・ルック・・・ごめ・・・んなさ・・・い、心配、かけて・・・ごめんなさい、ただいま・・・僕、帰って、帰ってきたから・・・ただい、ま・・・ルック、ごめんなさ・・・ありが、と、う・・・。」
数日が経過したある日、ルックの言葉に反応したのか、ピクリ、と少しだけ体が動いた後、湊の目に光がゆっくりと戻った。
そして、弱っているせいであまり動かない手を、それでもゆるり、と動かし、傍にいたルックをかろうじて抱きしめ、絞り出すように囁くように湊は言った。
「っみな・・・!!っ・・・。っお・・・おか、えり、お帰り、湊・・・。」
ルックは溢れてくる涙をぬぐおうともせず、必死になって抱きしめたい思いを堪え、そんな湊をそっと抱きしめ返した。
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ