ルック・湊(ルク主)
攻防
「あのね、ルック。」
「何?」
ルックは本を読みながら生返事した。湊は書類処理の手をとめて、ベッドで横になりながら本を読んでいるルックのそばまで行き、ベッドのふちでしゃがみ、手をマットにのせてから顎をそこにのせる。
「僕ばっか、“やん”とか言うのってずるいと思うんだ。」
「ふーん・・・。・・・・・・・・・は?ごめん、ちょっと耳にゴミでも入ったかな、よく聞き取れなかったようだ。」
ルックは無表情で本から目を離し、自分の傍にある湊を顔を見た。
「僕ばっか、“やん”とか“あん”とか言うのってずるいと思うんだ。」
そんな態度のルックに気を悪くした様子もなく、湊は同じようなセリフを繰り返した。
「・・・・・・・・・君は・・・頭でも・・・打った・・・?」
「・・・もう!そんな訳ないじゃん!だってさー、僕だってルックがそんな事言うの、聞いてみたい!」
そこに詩遠やシーナがいたなら、腹を抱えて笑いたいのをこらえているところだろうと思われるが、ルックはポカン、と湊を見続けた。湊はいたって普通の表情をしている。冗談を言っているようでもなさそうだ。
「・・・寝言は寝て言ってくれる?」
「寝言じゃないよ!なんで、なんで?別にいいじゃんー、形勢逆転してみたっていいじゃん!!」
「表現の仕方が微妙な事になってるんだけど。ってそんな事はどうでもいい。・・・君が、僕を攻めるってコト?・・・ふ。」
「何今の、心底バカにしたような笑いはーっ!僕だって出来るよ!だってルックといっぱい勉強したもの!!」
「・・・そんな事を力いっぱい言わないでくれる?・・・まったく、何を言い出すかと思ったら。君、書類の仕事してたんじゃなかったの?」
ルックはうつぶせたまま、ベッドに乗り出している湊の方に呆れた顔を向け続ける。
「・・・あともうちょっとだもん。」
痛いところをつかれ、少し目をそらしながらも湊はボソリ、と言った。
「ふーん。・・・ねぇ、出来るっていうなら・・・今ここで僕の力が抜けてしまうようなキスを君からしてみてよ。」
「え?い、今?僕が?」
「出来ないの?」
ルックはからかうような目で湊を見た。そんな目つきだけですでに赤くなっている湊だったが、次の瞬間決心したような表情をする。
「で、出来るよ!」
そう言うと、真っ赤な顔をしたまま身を乗り出してきて、ルックに軽くチュ、とキスをする。
こちらが言いだしたとは言え、湊からキスしてきたことに喜びと驚きを感じながらもルックはそっけなく言った。
「・・・おしまい?」
「う・・・。え、えっと。」
舌を入れようにも、よく考えたらどういう風に持っていけばいいか分からない事に気づいた。
む、むりやり押しこんだらいいのかな?でもルックはそんな風にはしてなかった、などとグルグルと頭で巡らせていると、ルックがふ、と笑い、右手を湊の後頭部に回した。
「!?」
そうして引き寄せ、今度はルックの方から湊にキスをする。啄ばむようにしてきた後でペロリ、と上唇を舐められる。
「っふ・・・」
その舌はそのまま湊の咥内にスルリ、と入ってき、歯や上顎を舐められたかと思うと、湊の舌を絡め取ってきた。
「っん・・・」
散々舌でなぶられたあと、ようやく唇を離してくれ、そして飲み込めず垂れてしまった湊の顎の唾液をペロリ、と舐めた。
「ん・・・。」
「・・・ごちそうさま。」
ルックにニヤリ、とそう言われ、湊はハッと我に返った。
そして自分がルックをとろけさせるどころか、自分が既にとろけそうになっている事に気づく。
「・・・う。」
「勉強、したんじゃなかったっけ?」
「あ、あれだもん!その、勉強と実地は違うってこと!きっとやってみたら僕にも出来るもん。」
やってみたらとか言うな、と思いつつルックはため息をついた。
「・・・なんで急にそんな事言いだした訳?」
「えー?だってさー、シーナが。」
一度トランに戻っていたシーナだが、湊の戴冠式の為数日前からこちらに来ていた。
「そういや下手したら湊は一生童貞のままだなー。」
ニヤニヤとそんな事を言われて湊はム、と思った。
「なんでだよ。」
「だってそうだろ?ルックと付き合ったままだとさ、お前受ける方だろ?」
「うん。」
恥ずかしがる様子もなく、湊は頷く。
「だったらそうなるじゃん。」
「あ。」
「もしくはさ、たまにはお前がルッくんを攻めてみるとか、どうよ?」
「え?そんな事可能なの?」
「は?可能もなにも、お前だってついてんだからそりゃ出来るっつーの。まあ後はお互いの同意の上って訳だけどよー。」
シーナは面白がってそう言っていたが、湊はどうやらまじめにとらえたらしい。
「シーナ、あのクソ野郎・・・」
ルックは暴言をつぶやいた。
「だから、ね?」
ね、じゃねぇ。ルックはちょっと引き気味に思った。そしてふ、と思いついた。
「じゃあさ。」
「うん。」
「君が僕より背が伸びたら考えてもいいよ?」
「ほんと!?」
「ああ。」
「分かった!」
湊は満面の笑みでそう言うとご機嫌で書類の続きをしに戻った。
“・・・バカな子ほど可愛い、とはいうけど・・・”
そんな湊の様子をルックは少し呆れたように見ていた。
それ以来、やたらと湊は牛乳を飲むようになった。
シュウが見かけた時も、クラウスが見かけた時も、まだ残っている腐れ縁達や他の仲間が見かけた時も、湊は牛乳を飲んでいた、と報告されている。
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ