ルック・湊(ルク主)
酩酊
珍しくルックが何気に通りかかった訓練所に立ち寄ると、赤いのと湊がいて、仲睦まじく訓練していた。
その姿を見てムッとするルック。
なんだよあの近さは。あんな接近して訓練になるわけ?あれ、赤いの、絶対わざとだろ、絶対わざと。だいたい湊も何嬉しそうにしてるのさ。
「あ、ルックッ。珍しいね。ルックも鍛えにきたの?あ、カミューさん、ありがとうございましたっ。」
そんなルックに気づいた湊が、にこやかに手をぶんぶんとふって、カミューにニッコリとしてからこちらにやってきた。
「そんな訳ないだろ。僕は君や熊と違って力技じゃないんだから。」
「あはは、確かにねー。でもさ、護身術とかくらいなら覚えておいても損はないんじゃない?」
別にいらない、と言いかけたところで赤いのが近づいてきた。
「ルック殿は魔術師ですから、湊様。魔力を高めるのに、武力は不要でしょう。いざとなればこの私がお守りいたしますよ?」
ニッコリと湊に言うと、湊は、わぁ、かっこいい、と顔を赤らめてニッコリしかえす。
「別にいらないよ。自分の身くらい、自分で守れる。」
ルックはそう言うと、ふい、と踵を返して訓練所を後にした。
・・・ムカツク。
だからといって鍛えるつもりはないけれども。この高い魔力を維持するのに、あの赤いのが言ったように、武力はかえって邪魔なだけだから。
イライラと歩いていたら、シーナに捕まった。
今は付き合う気はない、と言っているのに強引に酒場に連れてこられる。
こんな時はさすがに非力な自分を恨む。
「僕が未成年だと分かっての行動?てゆうか君も未成年だろ。」
「まーまー、固い事いうなよ、別にこの国じゃ特に決まった法律もないし。なんだよ、ルック。お前、飲めないの?」
ニヤリ、と小馬鹿にしたようなシーナにさらにムカつき、カナカン産の果実酒を頼む。
ちょうど、いい。軽く飲んで、このイラつきをすっきりさせよう。
「で、なんなの?何あんなイラっした感じで歩いてたんだよ?」
「・・・。気のせいだろ。」
「んな訳ねーし。お前、愛想悪いけど、あんま怒らないだろ。つーか、普段は基本的にいつだって冷めてんじゃねーか。どうでもよさげにさー。」
「ふん。」
「あ。分かった。湊だろ、湊が絡んでんだろ。ニシシ、春だねえ。」
かなり楽しげにシーナが飲み物を口にしながら言った。
「・・・今は春じゃないよ。」
「わーってるよ、モノのたとえじゃん。可愛いねールッくん。」
「・・・切り裂いてもいい?」
辺り一面凍りそうな勢いの視線をシーナに向けた。シーナはまぁまぁ、とルックにさらに飲み物を勧めた。
しばらくのち。
「だいたいあの子は誰にでも愛想よすぎるんだよ。あの八方美人め。」
普段そんなにたしなまないせいで、ほんの少しだけタガが外れたルックがいた。
「まー確かにそうだけどよー、なんてったって軍主様だからね、愛想も良くないとダメだろ?」
楽しそうにシーナは受け答えをする。
見た目はまったくもって変わっていない為、一見酔っているとは思えないが、まあ、多分酔ってるんだろうな、と思いつつ。
「それにニッコリ笑う時に頬を赤らめる癖もどうにかしてくれないか、アレ。絶対誰もが勘違いする。良からぬ事を思う奴が出てくる。てゆうか、もういっそ誰彼もとなく気軽に笑いかけるの自体やめて欲しい勢いだ。」
お酒、飲ませて良かったなーとシーナは楽しげに思った。
こんなレアなルックが見れるとは。前の戦いの時もあいつと一緒にルックも誘うんだったな。絶対楽しかっただろうな。
今はいないかの英雄を思い出しつつ、シーナはまあまあ、と相槌を打つ。
「そうは言うけどよー、もし誰に対しても愛想もへったくれもねぇ、笑いもしねぇ湊だったとして、お前、惚れてる訳?」
「・・・まあ、ないだろうね・・・。だからこそ、余計なんかムカつく。」
「もういっそ告れよ。」
「・・・今のあの子に言っても無駄なような気、しかしない。」
「あー。まあのほほんとしてそうだもんな。保健体育的な事も知らねぇんじゃねぇかな、とかたまに思うわ、俺。」
「んーいや、そうゆう基本的な事は多分知っていると思う。前におバカな奴に絡まれてた時も、良からぬ事をしようとしていた、とか言ってたし。ただ、根本的に鈍そうだけどね。」
「へえ。もうすでにチェック済みなわけ?やるね、ルック。」
ニヤニヤと言うシーナをぎろりと睨みつつ、ルックは答えた。
「チェックてなんだよ。たまたまそこに居合わせただけだ。てゆうか、そうゆう場面も多すぎる。」
今までもなんども声をかけられているところに居合わせたルックは眉をひそめた。幸い、ほいほいついて行くほどには頭のネジは緩んでいないらしく、そういった場合はやんわり、から身体に言い聞かせる(暴力的な勢いで)まで幅広く、断ってはいたが。
かといって、そういった風にあからさまに誘ってくる奴のほうが単純で分かりやすくていいのかもしれない。
今日の赤いのみたいなのが一番うっとおしい。ああいった相手に対してはまったくもってそっちのセンサーは働かないのか、警戒すらしてやがらない。
結局、けっこうな時間をシーナと過ごしてしまった。
今からは女の子と飲むわ、と相変わらずなシーナを置いて、ルックは部屋に戻る。
「あ。おかえりー、ルック。」
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ