ルック・湊(ルク主)
「目、覚めましたか?」
ふいに目の前が開けた感じになり、湊は自分の意識を自覚した。
「っここ、は・・・?あなたは。」
まだ身体が思うように動かないのは、完全に薬が切れた訳ではないのだろうか。そう思いつつも、横たわっている身体はそのままに、頭をふりながら周りを確認するも、どうやら森の中にいるようだとしか分からない。そうして声のした方を見ると、この間肉まんを買ったお店の人がいた。買った後で少しだけ言葉を交わした。その後、たまにレストランでも見かけた。
今はうつろな目で、ただ、ニッコリと笑いかけてきた。
ただそれだけなのに、湊は背筋が寒くなった。
何か、とてつもない執着と狂気を感じる。
「なんでこんな事、するの?」
「なぜ。分かっているはずです。僕の気持ちは。だのに、『なぜ』、ですか。」
分かっている・・・?分かる訳、ない。ほとんど言葉も交わしていない相手の何を分かれ、と。
「・・・ガマズミの花言葉。ご存じでしたか?」
「うん。僕はけっこう、草花知ってるんだよ。秋に実がなって。食べられるよね。ああ、なるほど、あなたなら、食材として色々な植物、詳しいんだろうね。変わった餡のまんじゅうも扱ってたものね。僕に使った薬もなんかの薬草からなのかな?・・・花言葉。『無視したら私は死にます』『結合』『未来』『恋のあせり』『愛は強し』かな。」
色々な状況を把握するためにも、湊はよくしゃべった。だが相手はあまりそれに返してこない。
「だのに貴方は始終誰かといるようになった。」
「そりゃあそうだよ。誰からかも分からないのは、やっぱり油断、出来ないと、思わない?」
「僕からだと分かってもらいたかった。」
「それはムリだよ。あなたの事、あまり知らないもの。」
すると青年は傍に近づいてきた。
今まで湊が動いていない理由。
薬のせい以外にも、手も足もしばられていた。
だから今も近づいてこられても何も出来ない。
「じゃあ、これから思う存分、知ってもらう。」
「遠慮します。」
「・・・否定の言葉は聞きたくない。」
そういうと、隠し持っていた包丁を湊の首元にあてた。そして少しスッと動かすと、薄皮一枚分程度が切れた。
「っ。今からどうしようっていうの。・・・なんとなく、分かるけど、ね。逆にまだ何もしてない事に驚きと安心だよ。そして僕の愛用のスパッツはどうなったんだよ。」
「・・・包丁つきつけてるのに、よく喋りますね。さすがです。スパッツ?ああ、あの黒いズボンのようなものですか。足をしばる際についでなので。包丁を使いましたので、残念ですがもう履けませんよ。そして、ええ、そうですね。そろそろ薬、切れる頃だろうと思い、しばったんですがね。また薬、使うには少し時間、必要なんですよ。僕が貴方を抱えて逃げてもいいんですけど、それでは人目につきますしね。薬、使えるようになるまでの間に貴方を堪能するのも素敵だ。」
そう言って男は、縛られ横たわっている湊の耳にキスをした。
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ