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ルック・湊(ルク主)

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決意4



夜歩き続けてクロムの村まで着いた。
だが村に入ったとたん、湊らは囲まれた。
ナナミは、もう居場所がばれた!?とあせっていたが、どうやらまったくそれと関係なく、違う事で疑われていた。

「お前ら、スパイだな?」
「え?」
「とぼけるんじゃねぇ、ティントが落ちたのはミューズ兵に化けたスパイのせいだって言うじゃねぇか!!」
「ティントが・・・。」

湊が呟いた。ナナミもびっくりしている。

「うそ!うそ!うそ!!」
「とりあえずふんじぱって村長のところへ連れていこうぜ。」

誰かがそう言い、湊に触れようとした。
が、それよりも先にルックと詩遠が前に立ちはだかった。ルックが静かに言う。

「・・・触れるな。」
「っなっ。」
「おっと、俺らは別にスパイでもなんでもないよ?でもまあ信じてくれそうにもないから、ちゃんとついて行こう、その村長?やらのところへ。乱暴な事をしなくても大人しく、ついて行くよ?」

詩遠がニッコリと言った。目は笑っていないが。
ルックと詩遠の様子に、村人はたじろぐ。

「と、とりあえず、じゃあこっちに来いっ。」

村人は湊らを囲うようにして歩きだした。
村長とやらの家に入ると、白髪の老人が出てきた。

「なんじゃ、騒がしい。」
「怪しいヤツらがうろついていたんで捕まえてきました。」

そう、村人の一人が言った時。

「あーーーー!!!湊殿!!!!!」

コウユウの声がしたかと思うと、かの少年が走ってこちらにやってきた。

「湊様!ご無事でしたか!!なにしやがんでぃ、てめえら!!この方はなぁ、同盟軍のリーダー様だぞ!!」

その瞬間、湊達を囲っていた村人たちはかなり焦った様子でそそっと湊達から離れる。

「し、失礼しました・・・。」

そこに先ほどの村長が入ってきた。

「これは失礼をいたしました。何しろ、田舎の村ゆえ、お許し下さい。」
「あ、いや、いえ・・・。」
「湊様、ティントが奇襲を受けたって聞いて、先にこっちに来てたんで心配してたんですが、さすがですね!ビクトールさんやクラウスさんもそのうち来るんですかねえ。あ、おいら?おいらはクラウスさんに言付けを頼まれてティントを出てたんでさあ。」
「え?え?あ、うん・・・。」

ナナミが戸惑ったように頷く。

「あ!そうかぁ。こりゃ気が利きませんでした。お疲れですよね。村長、おいらの借りてた部屋を湊殿に使っていただいて良いっすよね?あそこが一番大きいみたいだから。おいらなんかにゃあ、もったいねえ。こっちでさぁ!」

そう言って有無を言わさず案内された。部屋に入ってからナナミが言った。

「どうしよう・・・なんか悪いね・・・。夜になったらこっそり抜け出そうよ。」


そして夜。
4人が2階の部屋から1階へ降りるとコウユウの声がした。

「マルロ!マルロじゃねえか!!どうした!!」

見ると、玄関のところでコウユウが立っている先に、グスタフの右腕との事だったひ弱そうな青年、マルロが息を切らして立っていた。

「あ、うん、大丈夫です。ちょっと走ったから疲れちゃっただけです。」
「へ!だからいつも言ってるじゃねぇか、身体を鍛えておけって!イザという時に役立つのはこの腕っぷしだからなぁ。」
「あ、そうだね、コウユウくんは凄いね。」

上で見ていた詩遠が言った。

「・・・流したね。」
「ああ、流したみたいだな。」
「ルックもマルロにスルースキル教えてもらえば?」
「・・・うるさい。」

湊はそんな2人のやり取りをとても嬉しげに、だが切なげに見ていた。

「ところでお前、良く逃げてこれたな!」

コウユウがマルロに笑いかけて言った。

「あ、はい。ゾンビ達がティントに現れた時、僕はタンスに隠れて、それで見つからずに済んだんだよ。夜になって、こっそり坑道をつたって逃げてきたってわけさ。坑道の地図は覚えていたから、なんとか地上に出られたよ。・・・でも。タンスからこっそり外を覗いていたら見ちゃったんです。」
「何を?」
「グスタフ様のお嬢さんリリィさんと、コウユウくんのお姉さんのロウエンさんがネクロードに連れていかれるのを。」
「っなんだってぇ!ロウエンの姉貴が捕まっているだって!!」

湊は息をのんだ。詩遠が『とりあえず、一旦戻ろうか』と言って4人とも元の部屋に戻った。

「・・・どうせあまり寝てないし、少し休んでから早朝に出ようか・・・。」

ナナミが言ったのでとりあえず各自休むことにした。
しばらくして皆の寝息が聞こえ出した頃、湊はそっとベッドから起き上がった。部屋をこっそり出ると、階段のところにある窓のところまで行く。上の方にあるため、覗き込む事は出来なかったが、見上げると月が見えた。

「月・・・。」
「好きなのかい?」

この声は・・・。

「ルック・・・。」

振り向くと、いつの間にかルックが立っていた。

「うん・・・好きというより・・・気になって。月を見ると・・・ジョウイを思い出すんだ・・・。」

ミューズで平和を誓っていたジョウイを・・・。

「ふーん、そう、か。」

そう言ってルックも湊の隣まで来て何気に上を見上げた。その横顔があまりに綺麗で、湊はなぜか泣きたくなった。

「・・・眠れないのかい?」
「・・・ううん、大丈夫・・・。それより・・・ごめん、なさ、い・・・。」
「・・・湊。」

俯いた湊の顎を持ち上げてルックが静かに言った。

「何も謝らなくていい。前にも言ったろ。僕は君の望むとおりに。」
「・・・ル・・・ク・・・。」

おもわずポロリ、と落ちた涙を、ルックは指ですくい取った。そしてそのまま湊の目元にキスを落とす。
そして唇にもキスをする。
湊はギュッとルックに抱きついた。

・・・湊・・・。
ルックも抱きしめながら思った。
何も罪悪感とか、いらない。
多分僕に対して、だけでなく、他の仲間や、そして軍主としての仕事を投げ出した事、全てに対して。
君は、思う通りにした方がいい。
そして笑っていて欲しい。
ずっと逃げるしかなかった湊。ずっと周りに従うしかなかった湊。そしてずっと自分の事より他人の事を優先ばかりしている湊。
もちろん今回だってナナミの気持ちを慮っての事だろう。
それでも君が選択した事。
それだけで十分。
定められた運命など、変わるのであれば変わればいい。
むしろ、僕は運命をも超えて前に進む君が見たい。
だから、これは僕のエゴでもある。
僕の石板守りとしての義務なんか、それが見られるのであればクソくらえだ。それに戦争でいつ君が倒れるか、と気に病む必要もなくなる。
もちろん・・・今回の事でもし、紋章に影響があるのであれば。
・・・僕は君に嫌われたとしても、もう一つの紋章をどうにかさせてもらう。

だから。
謝る必要なんて、どこにもないんだ。

ルックは更に湊をギュっと抱きしめた。
陰で気配を消してその2人の様子を見ていた詩遠は、そっとまた部屋に戻った。
仕方ないなぁ、といった笑みを浮かべながら。

そして翌朝。
4人が表に出ると、そこはゾンビ達に占められていた。
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ