さくまさんの
さくまさんバクダン
陽が落ちて暗くなった外にベルゼブブと佐隈はいた。
仕事からの帰り道だ。
その仕事の関係で、ベルゼブブは人間に見えるよう変装していた。
駅が見えてきた。
しかし、そのまえに四車線ある道が走っていて横断歩道を渡らなければならない。
歩行者用の信号は青だが、点滅し始めた。
「あっ」
佐隈が声をあげた。
ベルゼブブと佐隈のうしろを歩いていた青年が慌てて走り出し、佐隈の肩にぶつかったらしい。
けれども、青年は佐隈に謝らずに進み、横断歩道を駆けていく。
その背中をにらみつけたあと、ベルゼブブは佐隈のほうに眼をやった。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。軽くぶつかっただけですから」
実際、佐隈はケガをしてなさそうである。
それにしても、あの男は失礼だ。
ベルゼブブは腹立たしく思う。
信号は赤に変わっている。
だから、ベルゼブブは道に足を止め、信号が青に変わるのを待つ。
ふと。
佐隈が身を寄せてきた。
ほとんど距離が無くなって、互いの身体が少し触れている。
「どうかしましたか?」
ベルゼブブは佐隈を見て問いかけた。
すると、佐隈はベルゼブブを見ないまま、決まり悪そうな表情で答える。
「……ベルゼブブさんのそばにいると安心するんです」
え。
ベルゼブブは一瞬ポカンとした。
しかし、すぐに、なにを言われたのかを理解した。
「ハイィィィィィ!?」
思わず声をあげた。しかも、その声は裏返ってしまっている。
破壊力が抜群すぎる。
見事に、吹き飛ばされてしまった。
体裁とか、全部。
信号が青に変わった。
ベルゼブブは歩き始める。
端正な顔は赤く染まっている。
そして、横断歩道を渡りながら、すぐそばにいる佐隈の背中に手をまわした。