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【APH】日本と×××【捏造日本史】

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「神とは不老であり、飢えや苦痛、病を知らず、常に高見の存在だと思っているのだが。…どうも私は年を取るし、空腹を覚え怪我もすれば病にもかかる。おまけに諸外国との関係に気を揉んでいる」
「はあ…」
「私を人は神と言うが、どうも私は神っぽくないと思っている」


っぽい等と誰が教えたのだ、仮にも一国の元首、日本の天皇がっぽいなどと!教育係出て来いと、菊は心の中に毒を吐く。
彼の父、孝明天皇に夜枕元に立たれたらどうしてくれよう。おお、怖い、怖い。ただでさえ、尊王攘夷だと大きな声をあげていた先代天皇の意向は、今や見る影も無いというのに。
息子の教育にまで何かあっては、本気で夜な夜なデビューをしてしまうかもしれない。それは避けたい、是非とも避けたい。
ぷるぷると震えだす手に力を入れ、菊は紅茶を口にした。気分を整え、四十も近い口髭たっぷりの天皇へ視線を向ける。


「お言葉ですが、普通の人間は貴方の年齢であれば、もっと皺とシミにまみれた顔をしています。空腹は何日……いえ、一生続く者もいます。怪我や病になったとしてもすぐに治るわけではありません。医者にかかれず、薬も飲めない輩など五万といます。しかし、貴方の肌には艶もあり、決まった時間に食事を出され、甘味をする余裕すらあります。貴方を案じ御匙が側に控え、怪我や病にかかってもすぐに回復します。貴方の為に私の為に骨身を削り邁進する官吏が、意を酌んで貴方の最終的な採決を望んでいます。例え貴方が気に悩んでも、それは官吏にとっては微々たるものです」
「つまり、どういうことだ?」
「ですから、貴方は神だと言っているんです!普通の人間は腹は減って病でうんうん唸って明日の生活にひいこらするもんなんですよ!貴方は違うでしょう!?神は神らしくふんぞり返って、私は神~、お~神であ~るとでも言っていればよろしいのです!分かりましたね!?」
「分からないような、分かったような、何故かしっくりこないぞ、菊よ」
「しっくりくるんです、お上」



あー、頭痛いと眉間の皺を揉み出す菊を皇上は見つめた。
ふと、呻く菊を見つつ、皇上はあることを思い返す。
皇上の記憶は遠い、まだ自分が幼い頃へ誘われる。
物心つく頃には、皇居―――以前は京の御所だった―――にたびたび現れた男は、己を日本だと名乗った。自分の父や叔母は日本を菊と呼んでいたため、何時しか自分も菊と呼ぶようになっていた。一月に一度御所を訪れていた菊が、何時の間にやら常に御所にいるようになり、あれよあれよというまに、徳川が政権を返上し、江戸へ向かえば、菊が江戸城で悠然と待っていた。
お待ちしておりました、と―――。
あの時、ごく自然に菊が出迎えたことに、皇上は何も疑問には思わなかった。
嗚呼、菊がいる、とただそう思い、長旅の労を労う菊とたわい無い話をしたような気がする。

幼い頃より見知った菊は、日本人らしい黒髪黒瞳である。今となってはごくありきたりな、耳の辺りで切りそろえられた髪型をしている。昔は、髷を結っていた。しかし、烏帽子を被ってはいたが、御所内では公家が普段着として着る衣服を着用していた。宮中への参内は原則束帯である。宮中を普段着で歩く菊。誰も彼もが宮中の奇妙な男に声をかけ、父である先代天皇ですら衣服を注意するどころか、和歌や雅楽の席によく誘っていた。
菊は衣服こそ驚愕だったが、姿形は人間である。しかし、その容姿は、決して変わらない。幼い記憶の日本と、今の日本は、同じである。
菊が言う、人間の歳を取るということは、彼には見られない。皺とシミにまみれた顔へと徐々に変わっていくはずが、肌はハリを保ち、目尻の皺が増えることはなく、頬に茶色いシミが出来ることは無い。
考えれば、菊はもう千年以上生きていることになる。それでも、二十代の青年にしか見えない。
老いることのない菊。変わらないその姿。ごくごく普通に食事をし、和装を好むが洋装も着こなし、幕末時は土気色の顔をしていたが今や赤みが頬に戻った。
何故か、菊が言う神を、今ここで思い返す。
嗚呼、神とは、まさしく――――。