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こ っ ち 見 ろ

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 ふと気がついたら、私の手が彼の肩に回され、もう片方の手は彼の頬に添えられ、それで、さっきより私たちの顔の距離が近い。
 それと、さっきまで全く私の顔を見ようとしなかったワイルド君が、瞬きもせずに私を見ている。
 ………………あれっ?
 神経が麻痺してうまく状況が処理できず彼の目を見たまま小首をかしげると、ワイルド君の顔がぼんっ、と赤くなった。添えている手から伝わってくる彼の温度が一気に上昇する。
 なんでこんなことに、ええと、えーと、うーん……………あっ。

 ほんの数秒前の事なのに抜け落ちていた私の行動が脳内を駆け巡り、あ、ああああああああああああ。

「……おま、え、て、奴、は、何、て、こと、を」

 脳内処理が追いつかずぐるぐると目を回していた私にでもわかるぐらい小刻みに震える彼が絞り出すようにいう。混乱ばかりだった頭にじわり、じわりと熱が上る。

「す、すまない、そして申し訳ない、つい」
「まッた無意識かよ……!」
「そうです!」

 更に顔を熱くする彼にどうしてか私は敬語で答えて必死で何度も頷いた。

「ワイルド君がなかなか私を見てくれないから、こちらを向いてほしいと思ったら、つい」
「つい、でほっぺにキスする奴なんかいるか馬鹿!!!! ってなんでそこでお前が顔赤くすんだよ恥ずかしいのはされた俺だろ?! つかなんでそのままの体勢なんだよお前! はい腕のける! 手ものける!」

 ぴゃっと払われた両手を名残惜しいけれど彼から離して、また体の前で手を色々組みながら私は彼に「実は」と語りかけた。

「……さっきが、初めてだったんだ」
「さっきのって、え、……マジか」
「今まで人と付き合ったこともなくってね。好きになったことはあるんだけれど、どれも成就する前に終わってしまって。だから、このようなデートも初めてで。君がこちらを見ないのも、私がどこか変だからかと思ったのだけれど……」

 違うのかい、と私はおずおずと彼に尋ねた。
 彼は呻きながら額を押さえ、少しの間頭を掻いて、ハンチング帽を一度深くかぶり直し、果てには帽子をとって顔を隠すようにしたあと猫がしっぽを踏まれた時のような声を断続的に出しながら仰向けに草むらに倒れこんだ。

「わ、ワイルド君?」
「……しかったんだよ」
「すまない、よく聞こえな「だからッ、恥ずかしかったっていってんの、お前の顔見んのがっ!」

 まっすぐ伸ばしてた両脚を折りまげて、半ば叫ぶように彼は顔を隠したまま続ける。

「なんか誘ってはもらったけれど変な空気で、どんな顔すりゃいいかわかんねぇし、何話せばいいかもわかんねぇしよ、いつも通りにいつも通りにって思ってもわかんなくなってくるし、もうわかんねぇことばっかで。そりゃーお前天然だしもしかして経験ないのかなってちらっと考えた。考えたけどマジとは思わねーじゃんかよ。それで俺の方が大人だし? でも俺一途だったから経験なんてあってないようなもんだしお前がリードしたほうがいいのかとか色々考えながら来てみたらお前超キラキラしてるし花飛んでるし、こいつ俺とどっかいくのこんなに楽しみにしてんだなー、と思ったら滅茶苦茶恥ずかしくなって、つっても話しても歩いても確かにお前は変だったけれどお前が変なんていつものことだしよ、あれ? デートって思ったのもしかして俺だけ? って思ったり悩んだりしていっぱいいっぱいだったのによ……お前はっ、お前はっ!」
「す、すまない本当に……」

 本当に泣いてはいないのだろうがおいおいと嘆くワイルド君に折紙君に教わったジャパニーズ謝罪の仕方を思い出して正座して頭を下げた。ハンチング帽の向こうで「これだから天然は」「壁があったら刺さりハイ」とよくわからない言葉が途切れ途切れに小さく聞こえてくるが、しばらくそれを眺めていると、ふいに言葉が喉から転げ出た。

「虎徹君」
「んだよ……ってまたお前突然俺の名前を」
「好きだよ」

 数拍おいて、彼はまたうめき声のようなものを上げながら、膝を立てたまま私に背を向けるようにごろりと横になった。

「なんっで、今、いうかな、お前」
「何故って、今そう思ったから」

 正座したまま彼の顔を覗き込むようにしていうと、尚顔を見せず彼はぽつりといった。

「……もうおれおまえきらい……」
「えっ」
「………冗談に決まってんだろばか………」

「ならば」、と私はもっと彼に顔を寄せて、静かに彼に語り掛ける。

「顔を見せてほしい」

 ぴくり、と彼の身体が震える。

「いいね?」

 しばらく時間をおいてから、そろり、そろり、とゆっくり彼がハンチング帽を下に下げていく。
 今度こそ意識的に彼に近づこうと、私はゆっくりと彼に顔を近づける。
 場所は、流石にさっきのような順番とばしはいけないので、彼が帽子をとったあとに彼の手をとって、許しを請うように、指先に。

作品名:こ っ ち 見 ろ 作家名:草葉恭狸