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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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SOUVENIR II 郷愁の星

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 ランディは目を見開いた。
 「……この星……なのですか!」
 ジュリアスが頷いた。
 「そのころ、この星はムワティエという名前ではなかったがな。たぶん、そちらでは相変わらず惑星d−13916018aと呼んでいる星だ。半分の機能を失いながら、記録から消去されることなく存在している」
 すらすらとジュリアスは王立研究院での管理番号を言った。星は消滅するとその管理記録から消される。そういえばあの星も、先日記録から抹消されたと報告があった。ランディが救おうとして反対にナイフをかざして彼を傷つけた子どもも、オスカーが気絶させた男も、結局救われないまま星自体が自滅した。
 「残っているというのは……すごいですね」
 ジュリアスは立ち止まってランディを見た。
 「実感がこもっているな、ランディ。そなたもどうやら様々な星の様子を見たようだな」
 「……はい。でも、俺は救えませんでした」あの子どもも、あの男も−−あの星も。
 「思い上がるな。守護聖が救うのではない、星の生き死にはその星の者自身が決めることだ」ぴしりとジュリアスが言った。「彼らが生きたいと願ったときに、陛下の手が差しのべられる。そして初めてそなたたちが動く」
 明快だ。ランディは、あの星での出来事以来初めてきっぱりとした解答を得たような気がした。
 「ジュリアス様、あの……もっと話をしたいのですが」
 「……私は構わないが。とりあえずこの娘を送り届けてからだ」
 ジュリアスは再び歩き始めた。
 「大丈夫ですか、彼女」ランディは瞼を濡らしたままのリディアを気遣って尋ねた。
 「ああ。意識はまだ戻っていないと思うが……。何故泣くのかわからない。何か夢を見ているのかもしれない」
 なんて優しいまなざしでリディアを見るのだろう、とランディは思った。
 「彼女のこと、とても大切なんですね」
 少し驚いたようにジュリアスはランディのほうを見た。そして苦笑するとぽつりと言った。
 「そうだな……何はともあれ、今の私の唯一無二の“家族”だからな。憎まれていようと」
 “家族”ですか、とランディは心の中で呟く。
 「……だが、明日は辛いものになるだろう、この娘には」
 首座の守護聖が直接問いただす。しかも相手は闇の守護聖クラヴィスだ。あのまなざしはどんなに嘘を並べても看破するだろう。また、風の力がほとんどないこの星で、ランディはそれを見過ごすことは風の守護聖としてできない。早晩彼が力を与えることになり、あの怯えた表情の人々に勇気が満ちたとき−−リディアは弾劾されるだろう。
 「父親の二の舞はさせたくない」
 マントで覆われてランディの目には見えなかったが、たぶん今、ジュリアスは強くリディアを抱きしめた、と思う。
 “家族”ですか、とランディは再び心の中で呟く。
 「俺やクラヴィス様のことを阻止するつもりですか?」
 なるべく感情をこめずにランディは聞いてみた。
 「そうできるものであればな」
 即答だ。ランディは苦笑した。
 「だが、私ができるのは、いかにこの娘を壊さずに済ませるかということだけだ」そう言うと、ジュリアスはもう何も言おうとしなかった。ランディも黙って後に続いた。
 やがて、出入口に着こうとしたとき、ジュリアスは立ち止まってランディのほうを振り返った。
 「ランディ、すまないが」
 ジュリアスは一瞬目を伏せたが、すぐにランディを見据えて言った。
 「しばらくしたらまたクラヴィスの元へ戻ってくれないか。そして」
 再び前を向いて彼は歩き出す。
 「もしも辛そうにしてたら、『無理をするな』と伝えて帰らせるのだ」
 ランディは一瞬、ジュリアスが何を言っているのかよくわからなかった。
 「ジュリアス様、あの……?」
 「私の勘違いなら問題はない」
 短くジュリアスは答えた。なおも尋ねようとしたが、兵士たちが駆け寄ってきたので、もうそれ以上は言えなかった。ジュリアスは、【黒い土地】にいるのが闇の守護聖クラヴィスであること、彼が出てくるまで誰もここには立ち入らないこと、ただし後でこちらの風の守護聖ランディがいらしたらお通しするように、と告げた。
 神殿の客間までランディを送ると、ジュリアスは同じ神殿の中のリディアの居室へ送って、ここから少し離れた自分の住まいに戻ると言った。てっきり同じ神殿中に住んでいるものだと思っていたランディは驚いた。
 「神官殿が亡くなって以来、私は居を別に替えた」そう答えるとジュリアスは顎で軽く腕の中のリディアの額を小突いた。
 「私とて、この娘から憎まれたまま同じ場所にいるのは辛いからな。それに」言いかけてジュリアスは「……では失礼する」と言って去ってしまった。
 何が言いたかったのか、ランディにはわかっていた。遠ざかる足音を聞きながら、ランディの中で妙にくすぐったい思いと、明日のことへの複雑な思いとがないまぜになっていた。“家族”なんてものではない。これが、星の存亡やサクリア絡みのことでなければ、彼は全身全霊をもってリディアの盾となっただろう。その昔、女王陛下の盾、と言った言葉のとおりに。
 ランディは窓に寄って外を見た。遠くのほうで微かに光が見える。クラヴィスが【黒い土地】にやすらぎを与える闇の力を送り続けている。
 引導を渡すのは俺か……。
 ランディは小さく呟いた。