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飛空都市の八月
飛空都市の八月
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SOUVENIR II 郷愁の星

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 あれ以来、オスカーとは口を利いていない。元来さっぱりした性格のランディにしてはかなりの遺恨といえる。今回も挨拶なしで来てしまった。いや、本当はちゃんと謝るつもりだったのだ。事情はどうであれ、あのときオスカーが来なければ間違いなく自分は殺されていた。視察という域を越え、その星の住人たちの争いに手を出してしまったために守護聖たる自分が巻き込まれることは良くない。
 守護聖……。守護聖の役割とはいったい何なんだろう。ランディはそんなことを今まで考えたことがなかった。完璧な傍観者でいることはとても難しい。殺されようとする子どもを見捨ててでも、自分は生きていなければならないのだろうか。確かに、大局をみれば彼のもたらす勇気を司る力は女王の統べる宇宙において必要不可欠のものだ。自分が風の守護聖である間は、自分の都合でその存在を消してしまうわけにはいかない。第一、ランディ自身そんな気はさらさらない。
 ならば、自分はどうすれば良かったのだろう?
 ……ああ、そういえば、こんな話、どっかで聞いたことがあったな……。
 ランディはシャワーの栓を締めると、大きなタオルを頭から被ってシャワールームから出てきた。
 ……クラヴィス様が言っていた……。


 まだオスカーが炎の守護聖として着任していないころ、ジュリアスと闇の守護聖クラヴィスがそれぞれ別の星に出かけていて通りすがりに同じ星の危機を察知し、そこに向かったところ、やはり暴徒と化した人々に襲われた。そして先代の炎の守護聖から剣を習っていたジュリアスは民たちを殺さないようにしながら果敢に応戦したが、クラヴィスがその暴徒たちの中の一人に抑え込まれので、その者を斬り殺した。そのときクラヴィスは、人を死に至らしめる自身のサクリアを発しようとしていた。ジュリアスはそれで周囲の大勢が死ぬぐらいならとその一人を滅したのだ、とクラヴィスは言った。
 光の守護聖としての判断は、たぶんとても正しい。ジュリアス様のようにはいかないよな、とランディは小さく呟くとぶるりと身震いした。そんなことが、自分にできるのだろうか。
 自分にとって視察とは、こんなことを言ってしまっては先輩守護聖はもちろん、言うときにはびしっと言う、弟のような存在の緑の守護聖マルセルからも叱られるかもしれないが、スリリングで楽しみだった。もともとじっとしていられない質なので、執務室にこもっているよりずっと彼向きの執務と言えた。だが、いつも暢気で楽しいことばかりではない。実際に行ってみて初めてわかることが多い。オスカーが自分が思っていた以上に苦労していたことがわかる。けれども感情がそれを許さない。
 その上、今回の視察についても気にくわない。大々的ではないが、この星の神官にはすでに風の守護聖自ら訪れることが通知されているからだ。この星は聖地のある主星からはかなり離れているから、そこへ守護聖がわざわざ行くとなると、きっと神官の周囲はたいへんな騒ぎになっていることだろう。歓迎式典なども行われるのかもしれないと思うと、まだ年若く、そういう場にあまり慣れていないランディは少し気が重かった。それでもそれはまだいい。この訪問は、正式には守護聖の現・首座であるクラヴィスがこの星を訪れるための、いわば前哨戦みたいなものだからだ。しかし、彼の内にくすぶるものがある。首座の守護聖が聖地から抜けることなど滅多にない。それがわざわざ首座自らが赴くのはどういう理由があるのか。ましてや、クラヴィスは聖地の中でもそうそう出歩く質とは言えない。それが何故ここまで来るのか。肝心の星を目の前にした今となってもランディに知らされることはなかった。そのうえ、クラヴィスの訪問が正式なものであれば、その前調査的なランディの来訪は告知される必要などなかった。オスカーは、執務が立て込んでいて自分は行けないと言ったので、初めて単独で視察ができると内心喜んだランディだったが、蓋を開けてみれば小規模ながら護衛付きの訪問だった。
 信用されていない。
 これが、ランディの気持ちを逆なでていた。籠の中で大切に保護されながらの視察というわけだ。あの一年前、ジュリアスが聖地を去る前にやはり視察のためオスカーと同行したいと言ったときに、ジュリアスからは冷たく突っぱねられた。
 「そなたにはまだ早い」
 単独視察もまだまだ早いというわけですか、ジュリアス様。
 ランディは一人呟く。殺されそうになりながらぼうっとしていたぐらいだから。自分の身も守れないで、オスカーに救われたのにこんな恨み言を言っているから。


 ランディは再び鏡の前で、髪から滴り落ちる水滴をタオルでガシガシと荒っぽく拭った。考え込んでいることは自分の性分に合わない。それよりこれからのことを考えよう。何はともあれ、自分は守護聖としてきちんとした態度でいなければならない。身支度を整える。資料にはこの星の男たちはみな剣を帯びているとあるので、ランディも剣を用意した。なるべくその星の様子に合わせることが、民たちを安心させる秘訣だとオスカーから教わった。
 そういえば口も利いていないから、当然、日課だったオスカーとの剣の稽古もしていない。いや、一度は行ったのだが、オスカーは前日から宮殿に出仕したまま帰っていないと聞いてからなんとなく行きそびれてしまった。
 ランディは剣を抜いて軽く振った。幸い今、傷は痛まない。
 体がなまってるよな……。
 こんなにぐるぐると考え込むのは体を動かさないからだ。この際、護衛付きだろうが何だろうが、とにかく動いてみよう、とランディは思いつつ、その星−−惑星d−13916018aへと降り立った。