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飛空都市の八月
飛空都市の八月
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SOUVENIR II 郷愁の星

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 (ぼちぼち行ってみようか)
 ランディは部屋に備え付けられた時計を見て、ごろりと横になっていたベッドから起き上がった。ジュリアスが何を心配しているのかわからないが、とにかく、あの【黒い土地】に行ってクラヴィスの様子を見にいこうとして彼は扉のほうへ向かった。
 そのとき、扉を軽く叩く音がした。開くと、そこにリディアがいた。
 「良かった、まだいらしてて」
 顔を見るなり、リディアが言った。リディアの鎧姿しか知らなかったランディは驚いて彼女を見た。白いローブ姿は彼女の体の線をくっきりと浮き立たせている。どうやら神官の衣装らしい。銀の錫を持ち、日中の彼女よりずっと大人びて見えた。
 「……どうしたんだい?」
 すぅと息を吸い込んで、ランディが尋ねた。
 「お手間は取らせません。【黒い土地】にいらっしゃるのでしょう?」
 「え、ああ……」
 何故知ってるんだろう、とランディは思ったもののリディアの言葉の続きを待った。
 「今、祈りの間に行って、お願いをしてきました」そう言うとリディアは、ランディの前に跪いた。「どうぞこの惑星ムワティエに、ランディ様の力をお与えください」
 驚いてランディもリディアの目線と同じ高さに屈んだ。
 「リディア、君……!」
 「……天使様……女王陛下が今さらこんな私の願いなど聞いてくださるかどうかわからないので、あわせて直訴に参りましたの」苦笑してリディアが言った。「もうすでに我が星の執務官からも願い立てしているようですから、大丈夫だとは思うのですが念押しも兼ねて」
 ランディは、とんでもないことを聞いているのに気づいた。このようなことを、ジュリアスがリディアに言っているわけがない。
 「まさか、君……」
 「さっき、全部聞いていましたの。体は動かなかったんですけど」
 肩をすくめてリディアが笑った。
 まいったな……。
 ランディは、ため息をついてその場に座り込んだ。リディアも膝をついて座った。
 「頭のどこかでわかっていたんです。いつか私は裁かれるって。申し訳ございません。ランディ様の御力をないがしろにしてしまって」
 深々と、リディアは頭を下げた。
 「……でも何か事情があったんだろう?」
 あってほしい。
 「今さら申しても詮ないことです」
 短くリディアは返し、立ち上がった。
 「お邪魔しました。それでは」
 再び深く礼をすると、リディアは神殿の外への通路を行こうとした。
 「リディア、どこかに出かけるのかい?」
 彼女の部屋とは逆方向なのでランディは追って尋ねた。
 「なら、送るよ」
 リディアは立ち止まって目を丸くした。そして笑った。
 「いけません、ランディ様」
 「え?」
 「だって私、これから決死の夜這いに行くんですもの」
 「は?」
 素っ頓狂な声を出してしまったので、ランディはあわてて口を抑えた。リディアはくすくすと笑った。笑った顔がやはり可愛いとランディは思った。本来、彼女はこういう娘なのだろう。
 「ごめんなさい、変なことを言って。でも」笑いを収めて、リディアは言った。「今晩しか、もう時間はないと思って」
 わかっているのだ、この娘は。ランディが星に力を与えたとたん、自分がどうなるのか。そして、そうなる前に彼女は。
 「執務官さん……のところに……?」
 掠れた声になった。ランディは、他人事ながらどぎまぎしている自分がもどかしかった。
 何も言わず肩をすくめる様子も可憐だ。鎧を身につけていない彼女はこんなに華奢なのだ。ランディはリディアの肩をぐっと抱くと、再び歩き始めた。
 「ランディ様……?」
 「送る」前を見たままランディは言った。
 「ええ?」
 「送るよ」
 我ながらたぶん愚かなことをしている。けれども、ランディにはこれぐらいしかこの娘を励ます方法がわからなかった。
 「俺と一緒だったら、妙に思われないだろう?」
 「そ、それは、そうですけど……」
 全部、聞いていたと言っていたな。
 「執務官……ジュリアス様のこと、よろしく頼むね」
 ランディがそう言うと、抱いた肩がびくりとした。
 「あの……ジュリアスは何の守護聖様だったのですか?」
 おずおずと、リディアが尋ねた。
 「光。誇りを司る光の守護聖」
 「……そうでしたか……」リディアは納得したように頷いた。
 神殿から外に出た。ランディはリディアの肩から手を外した。少し残念な気がする。何人か民や兵士たちと出会ったが、彼らはリディアの服装には驚いたようだったが、一様に守護聖様とそれを案内する神官としか見ていなかったようだった。
 やがて、古風な一軒家の前に来た。
 「ここです」リディアがランディのほうを見て言った。窓に明かりが灯っている。
 「じゃあ」そう言うと、ランディはぽんとリディアの背中を押した。指先に、少しだけ彼自身の力を込めた。
 「あ」リディアが小さく声を上げた。「今、温かい感じがしました」
 ランディはただ笑って返した。リディアが礼をして家へ向かう。前代未聞なことだろう、神官の夜這いに協力した守護聖など。しかも風の力まで与えてしまった。ジュリアスには叱られるかもしれない。
 それでも。
 明かりのついた窓を一瞥して、ランディは小走りで【黒い土地】へと向かった。