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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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SOUVENIR II 郷愁の星

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 ランディは静かに笑みを返してきたリディアを見た。昨晩の彼女の思いは完遂しなかった……のだと思う。ジュリアスからそのようなことをわざわざ聞けるはずもない。それでも、あの笑顔を滅多に見せなかった少女は微笑みながら自分を見ている。彼女に対して今まさに断罪の行為の最中である自分を。
 思いを遂げられなくても、君はもうこの世に未練など一つもないと言うの?
 そのあまりにも穏やかな表情に、ランディは笑顔で応えながらも内心胸を締めつけられるようだった。
 自分にできることは何か。ジュリアスが去った後ランディは考えてみた。結局あれからクラヴィスと共に神殿の客間に戻った後、クラヴィスはルヴァや、どうやらオスカーともあれこれ話をしていたようだった。先に休んだランディが目覚めたとき、クラヴィスは少し仮眠を取ると言って寝室へ向かうところだった。
 「ジュリアスやあの娘には、謁見は午後からにしてほしいと伝えてくれ。その間にルヴァかあるいはオスカーから連絡が来るはずだ」
 「何を……」
 「この星の行末について、女王陛下の裁断を仰いでいる」
 「陛下……に?」
 クラヴィスは少し疲れた表情で頷いて寝室に入ろうとしたが、振り返った。
 「おまえには、この星全体に力を送るよう陛下から指示が来ている」
 ランディはぎくりとしてクラヴィスを見た。星全体で見れば少しはあったらしい風の力。だが、実際に人の住むほうの地にはほとんど感じられなかったこの力を、注ぐのはあたりまえの話だ。ましてやこの星の神官が祈りの間で天使たる女王に願い、そして風の守護聖であるランディ自身に直訴までしたのだから。拒否することはランディにはできない。それでも……。これほど自分の力を星に送ることが辛いと思ったことはランディにはなかった。
 「おまえのやるべきことは、星に力を送ること」ランディの迷いを見透かすようにクラヴィスが言った。
 「そして、ジュリアス同様、あの娘から目を離すな」
 はっとしたようにランディはクラヴィスを見た。
 「この星がこうして存在し続けているように、あの娘も神官としての務めを全うすべきなのだ。違うやり方でな」
 この星がこうして存在し続けているように……?
 この半分の星のように?
 ランディはクラヴィスの言葉の意味が今一つ掴めなかったが、それでも神官としての務めを違うやり方ででも全うすべきだということに、意を強くした。
 「ちょっとそこで待っててくれる? もう少しでこの星に俺の力が満ちる」
 ランディがそう言うと、リディアは微笑んだまま頷いた。再び目を閉じてランディは、体の中心に力を込めた。


 ランディは、リディアとジュリアスに、クラヴィスから謁見を午後にしてほしい旨伝えた。先送りされたことで少しだけほっとした気持ちと、引き延ばされてしまったことへの苛立たしさ。リディアは複雑だった。
 「……クラヴィス様はお加減が悪いのですか」
 まだリディアが自分の過去を知っているとは思いもよらないジュリアスは、リディアの前では敬語を使ってランディに尋ねた。昨日もそういえばジュリアスはあの闇の守護聖のことをしきりに気にしていた。意識を失う前にぼんやりと見えた黒い髪の人、というイメージしかリディアにはなかったが、闇の守護聖ということは光の守護聖だったジュリアスとは対たる存在といえる。心配なのだろう、とリディアは思った。
 「いえ、ちょっと聖地と連絡を取り合っていたようです」
 ランディは短く答えると、リディアを見た。
 「で……時間が空いたから、俺と手合わせ願えないか? リディア」
 あまりの意外な申し出にリディアは一瞬言葉を失った。ジュリアスが横で何か言おうとしたが、ランディはすぐさま言葉を続けた。
 「ただ待っていてもつまんないだろ、それよりは体を動かしているほうがいいと思わない?」快活に笑って彼は言った。「だって君、昨日手合わせしてくれるようお願いしたのに、途中で修練場からいなくなっちゃっただろ? 残念だったんだよ」
 どういうつもりなのだろう。リディアはランディの言葉を測りかねていた。神たる守護聖の気まぐれで、たかが一つの星の神官の運命などどうでも良いのかもしれない。
 リディアは錫でたん、と床を叩くと、厳しい表情になって言った。
 「ええ、ランディ様。わかりました、お相手させていただきます。修練場でお待ちしています」
 そしてくるりと踵を返し、リディアはランディから離れた。