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飛空都市の八月
飛空都市の八月
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SOUVENIR II 郷愁の星

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 「確かに私は【黒い土地】の事情を知る者として、神官殿に提案は致しました。だが」淡々と語る口とは裏腹にジュリアスの視線は老人を厳しく貫く。「それすらも神官殿に申してはならぬとおっしゃるのか、御老体は」
 ふぅ、とクラヴィスはため息をついた。
 「……星の中のことは内々で解決してもらいたいものだな」投げやりに言って、クラヴィスは目をリディア、そして老人たち同様不満そうにしている民たちのほうに向けた。とたんに場は静まる。
 「何はともあれ、私が力を与えた結果、あの土地は少しは瘴気……が治まったのではないか?」ジュリアスのほうを見てクラヴィスが言った。
 民たちが一斉にざわめく。【黒い土地】がこの星にとってどれほどの重荷となっていることか。それもこれもあの瘴気のせいだ。民の誰もが−−リディアですらも−−親類縁者の誰かを瘴気のせいで亡くしている。老人たちも本当は悪くない、とリディアは思う。彼らとて、たぶん若いころから散々苦労しているのだ。だからこそ、この星を脱出して別の星を侵略するという考えに至ってしまった。
 ジュリアスはクラヴィスに深々と礼をすると、民たちのほうを向いた。
 「昨日私も立ち会って確認している。神官殿にいたっては鎧をつけずにあの【黒い土地】にいた。……もっとも、瘴気ではなくクラヴィス様の御力にあてられてぐっすりお休みだったが」微笑みながらジュリアスが言った。厳しい顔から一転してのこの笑顔の威力を、きっとジュリアス本人はわかっていないとリディアは思う。
 「すげえぜ、巫女さん、ジュリアス!」
 エノルムだ。この笑顔に惚れて、彼もたんなる暴れん坊から今ではすっかり兵士たちの代表的な立場になってジュリアスを助けている。
 そして今もまさにそうだった。彼は拳を突き上げて嬉しそうに叫んだ。
 「鎧をつけなくて済むなんて大歓迎だよ!」
 彼は兵士たちの、いわばムードメーカーだ。彼の一言で周囲が一気に明るい雰囲気に変わった。
 浮き立つような騒ぎの中で、しかし老人たちはお互いに何かを言い合っている。そしてその中の別の一人が叫んだ。
 「じゃあ、今まで全く神官殿のお祈りをされている様子が見られなかったのはどういうことですかな! 我々がこうして申し立てできるのも、今朝、そこにおいでの風の守護聖ランディ様がこのムワティエに力を与えてくださって初めてのことだ。私たちはそれまでありとあらゆることが恐くて恐くて仕方がなかったのだから。それに私たちが炎と鋼の力を願っても神官殿はいっこうに聞き入れてくださらん!」
 いったん言葉を切ると、彼は続けた。
 「それというのも先代同様、神官殿も天使様の御姿を見ることがおできにならないからではないか。そして先代を殺したのは」
 「控えよ、御老体!」再び厳しい表情になってジュリアスが言った。「ランディ様の御力の賜物でそのような勇み足な言い方をされるようでは、ランディ様に対して失礼であろう」
 老人はグッとジュリアスを睨みつけたが、ジュリアスは全く意に介していないようだった。リディアは顔に出さないようにして密かに苦笑する。ジュリアスを敵に回すときっと恐い。
 リディアは振り返り、民に向かって言った。
 「私は父を殺してはいません」
 民たちは初めてリディアがこの件について言及するのを聞いた。
 「でも、殺意があったことは確かです」民たちがざわめく。背後にいるジュリアスは怒っているかもしれない。だがこればかりはごまかすことはできなかった。
 「でも、父は私が乗り込んだときにはすでに事切れていました。本当です」
 「……何で今ごろ言う気になったんだ? 巫女さん」真面目な顔になってエノルムが尋ねた。
 「だって、殺したい、とは思ったんですもの。父が死んでいなかったら私が殺していたかもしれない。同じことだと思ったからです」
 あまりの単刀直入な言い方に、毒気を抜かれ、エノルムはきまり悪そうに頭を掻いた。
 「わかったよ、俺たちの疑心暗鬼をあんたは黙って受け止めていたってわけだ。すまない」
 「謝る必要はないのですよ、エノルム。私が混乱を招いたのは事実ですし。それに……ランディ様の御力をお願いするのが遅くなってしまったことは詫びます」
 そう言うと、リディアは再びクラヴィスのほうを見た。
 クラヴィスが前に進み出てその老人を見据えた。民たちは一斉にクラヴィスのほうを見た。
 「内々のことは私には預かり知らぬことだが」クラヴィスは続ける。「神官が祈らぬには訳がある。そのせいもあって、この星は本日をもって我ら守護聖と、おまえたちが『天使』と呼ぶ女王陛下の直轄地となる」