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飛空都市の八月
飛空都市の八月
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SOUVENIR II 郷愁の星

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 そのクラヴィスの言葉で、神殿前はまさに地から沸き上がるような騒ぎとなった。最も慌てたのは老人たちであり、リディアはもちろんのこと、ジュリアスすらも驚きの表情を見せていた。だが、ジュリアスは我に返ると「静まれ!」と一喝した。
 ランディも、クラヴィスがルヴァやオスカーと話をし、女王陛下に何か裁断を仰いでいるということは知っていたが、まさかこんなことになっていようとは思いもしなかった。
 ある程度民たちがおさまったところでクラヴィスが続けた。
 「……ただしこれは期限付きのことだ。【黒い土地】がこちらの人の住む地のレベルに復活するまでの」
 惑星d−13916018−−惑星ムワティエは、希有な星として王立研究院から特別指定を受けることとなった。その理由は、【黒い土地】と人々の住む地との半分に分かれていることにある。民の住む側は炎と鋼の力のみが大量に存在し、他の力はかなり少ないか、もしくはほとんどない。ところが、【黒い土地】はほぼ全ての力を保有している−−保有というよりは滞留していると言ったほうがふさわしい。それというのも力を消費する生物が存在しないからだ。
 ランディはようやく【黒い土地】に行った兵士たちが神殿にいる民たちと異なり活気づいている理由がわかった。瘴気という危険と引き替えに、彼らは【黒い土地】のため込んだ力を受け取ることができたのだ。
 だから、とクラヴィスは言う。
 むやみやたら力を与えるととんでもないことになる。聖地からは星全体にしか力を与えることができない。例えば、炎と鋼の力を与えれば、【黒い土地】は活気づくが、民たちの地においては飽和化して戦争の引き金になりかねない。緑の力は民たちを潤すが、【黒い土地】では瘴気をより激しく発生させる原因になる。万事がこのように星半分ずつで各々望みが異なっているために、只人の代表である神官にも判断しようがない。
 リディアのとった「何もしない」というやり方は、あまりにも極端かつ消極的な方法ではあったが、結局この星のためになったということになる。もっとも、これについてクラヴィスは言及しなかったが。
 ランディ自身、何故天使−−女王陛下−−アンジェリークが彼女の前に現れなかったのかが不思議だったが、それは『その必要がなかった』からだ。王立研究院は星全体のデータしか得ていないから、半分に力があり半分に力がないなどという判断はつかない。報告を受けたアンジェリークが警告するために姿をあらわすこともなかったというわけだ。
 星から−−ジュリアスからの願いが来るまでは。
 力は星全体にでなく、各々の土地の求めるものを与えなければならない。それは聖地からでは今のところ難しい。そのような星はかつて存在しなかったからだ。
 星は。
 クラヴィスが民に諄々と語る。
 たいていの星は、生き続けるかもしくは崩壊するかのどちらかを選択する。だが、この星は違う。まさに崩壊しようとしたところを自ら踏みとどまることができたのだ、と。このような例はこの星以外無いに等しい。だからその子孫たるおまえたちはこの『半分』の星を誇りに思うべきなのだ、と。
 ランディは側でクラヴィスの話を聞きながら胸が熱くなる思いがした。「この星がこうして存在し続けているように」というクラヴィス、そしてジュリアスの言葉の意味はここにあった。
 ランディはジュリアスのほうを見た。なんて穏やかな笑顔だろう。直接聞いたわけではないが、ジュリアスがこの星をいわば第二の故郷として定めたのには、このあたりの事情があるのではないかと思った。
 そのとき、ふと、そのジュリアスの後ろで何かが光ったような気がした。気配に気づいたらしい、ジュリアスも振り返った。
 悲鳴が起こる。
 「その執務官さえいなければ、この無様で呪われた瘴気のある星など捨てるものを!」老人たちとその周囲の数名が立ち上がって叫んだ。守護聖の御前で、鎧を着けず、剣も持っていない今が好機だとでも思ったのだろうか。
 剣を持った男がすさまじい形相でジュリアスに剣を振り下ろした。その場で唯一剣を持っていたランディは、クラヴィスを押し退け、その向こうにいるジュリアスの腕を引くと、まさに“風”のような速さで男の剣を受けてはじき返した。男は勢いで圧され、バランスを崩して尻餅をついたまま神殿前の階段に半身を落とした。
 神殿前は騒然となった。男はまさか守護聖が、星の執務官を庇って前に立ちはだかるとは思っていなかったらしい。
 「大丈夫ですか、ジュリアスさ……」ランディは自分の背にジュリアスを庇いながら尋ねた。なのに、ジュリアスの言葉は礼ではなく叱責だった。
 「馬鹿者!」
 「え?」
 「守護聖であるそなたが怪我をしたらどうする!」
 その二人の横を、クラヴィスがついと通り過ぎた。そして男の目の前に細く長い人差し指を突き出した。
 「や……やめろ! クラヴィス!」
 何をしようとするのか察知したジュリアスが思わず呼び捨てで叫んだが、民たちはもっぱらクラヴィスの指先に灯る紫色の光を固唾を飲んで注目していた。
 「……守護聖の前で刃傷沙汰を起こすとは大したものだ」クラヴィスの目がすっと細くなる。
 「しかもこの星で、この私の目の前で、あれを殺そうとするとは」
 男は真っ青になって震え出した。
 以前ジュリアスがクラヴィスを殺そうとした民を反対に斬り殺したのはこの星だ。あの出来事は、ランディが思っている以上にクラヴィスの心に影を落としていたらしい。
 「私の力を与えてやろう……永遠のやすらぎの」
 ランディは戦慄した。