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飛空都市の八月
飛空都市の八月
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SOUVENIR II 郷愁の星

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 そしてリディアも慄然としてその様子を見ていた。ジュリアスに剣が振るわれたとき、あまりにも距離があってリディアにはどうすることもできなかった。ランディの電光石火の働きのおかげでジュリアスが助かったことがわかったとき、嬉しくて仕方がなかった。ほっとしたのも束の間、その哀れな男は闇の守護聖の逆鱗に触れた。
 “あれ”と闇の守護聖が呼ぶのはジュリアス。それほどに近しい存在だったのか、とリディアは驚愕した。そして何よりこの殺気。一体何があったというのだろう、この星で。
 そのとき、リディアは後ろからがしっと体を羽交い締めにされた。
 ……しまった!
 無礼者を振り払おうとしたが、首に腕を回されて自由が利かない。剣さえあれば何とかなったものを! “戦いの巫女”の呼び名は伊達ではない。だが剣を持たず、このようなローブ姿で、手に持つのは細い銀の錫だけでは。抵抗するリディアに、周囲の民たちもリディアを救おうとしたものの、男が剣を振り回して近寄ることができない。このままでは民たちに危険が及ぶ。
 「おやめなさい! 私がじっとしていれば良いのでしょう?」
 仕方なくリディアはそう言うと錫を持っていないほうの手をだらりと降ろして無抵抗の意志を示した。
 リディアを捕らえたのはやはり老人たちの一派の者らしい。男はリディアの後ろから首に腕を回して剣を逆手に握り、リディアの胸あたりにその切っ先を当てた。
 ジュリアスと目が合った。ごめんなさい、とリディアは目で語る。そしてランディ、クラヴィスを見る。申し訳なく思った。守護聖方がこの星のために動いてくれているのに、こんな無様な内紛劇を見せてしまったことに。
 クラヴィスは心底呆れ果てたといった表情で鬱陶しげに指の光を男に発した。民たちからおお、と声が漏れた。
 「心配するな、眠らせただけだ」クラヴィスがそう言ったところでジュリアスがクラヴィスの横をすり抜けた。昏倒した男の手から剣をもぎ取ると、リディアとリディアを捕らえた男の前で剣を構えた。
 リディアは、さきほどのクラヴィスとは異なる殺意を、ジュリアスに感じた。昨晩、一瞬見せたすさまじいまでの冷酷さ。リディアの耳元で、男がごく、と喉を鳴らした音がした。
 リディアは男に悟られぬよう、静かに錫についている輪の中から三つ選んでそこに指を通した。男が自分を盾にしてジュリアスを脅そうとしていることは火を見るより明らかだ。こんなことで足手まといになろうとは。
 「私を離しなさい。私をどうこうしたところで民の意志は変わりません」
 ひんやりとした刃の感触をローブ越し、胸に感じながらリディアは言った。ジュリアスがじりじりと迫ってくる。絶対にジュリアスを傷つけたくない。リディアはなおも男を説得しようと試みた。
 「私に危害を加えたとたん、あなた、死にますよ? ジュリアスの腕はわかっているでしょう?」
 輪に通した指に力を込める。
 男はしかしリディアの言葉に耳を貸さず、ジュリアスを威嚇するようにますます剣の切っ先をリディアの胸に当てると叫んだ。
 「執務官殿、自分の持ってる剣で自分を刺すがいい! そしたらこの娘は助け……」
 −−私の命なんかを引替に、ジュリアスに死ねと言うのね。……本当に愚かしい。
 リディアは、指に通した輪を思いきり引いた。