朱金の王花
佳人が差し伸べた手を、うやうやしく跪いて王は手に取った。一途に慕う瞳に、エドワードの中の何かが耐え切れなくなって叫びだす。大佐の顔でそんな風にオレを見るな、と。頭の中でわんわんとその叫びが響いて、ふっ、と誰かの記憶の再生はそこで終わった。
ぺたん、と座り込んで、エドワードはそのことに気づいた。気づいて、そしてぼんやりとあたりを見回す。あたりはやはり極彩色に満ちていた。むせかえる花の匂いで頭がくらくらしてきた。
「……おまえは、種か」
ぽつりと呟かれた声に、エドワードは顔を上げた。そこには途方に暮れたような顔で、自分そっくりの、自分がいくつか年を取ってもう少し背が伸びて、その、大人びたらこうなるだろうか、というようなひとが佇んでいた。エドワードはその顔を見つめ返す。
「…種?」
聞き返したら、そのひとは微かに笑ったようだった。そして、ぺたん、と子供のようにエドワードの前にしゃがみこむ。驚いたのはエドワードだった。だが、目を丸くするエドワードに、その名前のわからないひとは今度ははっきり笑いかけた。
「手を」
再びつなぐようにと促されて、暫時エドワードは迷った。さきほどのロイに似た男の表情が脳裏をかすめたせいで。だが、相手はエドワードの逡巡などお構いなしに手を握ってきた。振り解こうとしたが、懇願するような目を向けられては無理だった。
そして、エドワードはもう一度誰かの記憶の中へ放り込まれたのだった。