朱金の王花
エドワードは、目の前の相手が自分の弟であるかのようにそっと問いかけた。金色の瞳が瞬いて、複雑な顔になる。だがつないだままの手から気持ちは簡単に流れ込んできた。花の精がいうように、エドワードは種のひとつなのだろう。きっとエドワードがいる場所までその種は飛んできて、いつのまにか一緒になってしまったのだ。
エドワードはすこし考えた後、両手で花の精の手を握った。
「…見える? このひと、あんたの王様にそっくりなんだ」
自分が相手の記憶を共有することはできたけれど、相手は人間ではないからできたのであって、それが自分にもできるかどうかはわからなかった。わからなかったが、既にして事態は常識の範疇を大きく超えてしまっている。いまさら少しくらいの不条理にありえないと目くじらを立ててもしょうがない。そう思いきって、エドワードはマスタング大佐の姿を思い浮かべて見せる。
「…わかる? このひと、あんたと会ったことがあるんだ、きっと、ここで…覚えてる?」
あ、と相手は目を瞠り小さな声を上げた。見えた、のだろう。エドワードの中に。ロイの姿が。じわりとにじむ金色の目を見つめながら、エドワードは笑った。
何となく安堵していた。ロイが人間違いをしたように、このひともロイを王様と間違えた。自分と似た誰かと何があったのか、と面白くなく思っていたが、こんなひとが相手では思い悩むのがばかばかしい。何しろ相手は人ではないし、慕っているのはもう何百年も、下手をしたら何千年も前にいなくなった相手だ。ロイがこの相手に何か特別な感情を抱いたのだとしても勝ち目なんて――…、
「……ん?」
そこまで考えて、エドワードは眉間にしわを寄せた。なんだか、それだとまるで自分が…。