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二人は、お互いがそっぽを向いたままで、遠く離れた席へと座っていた。
物言わずやり過ごすその気まずさを、もちろんお互いがお互い肌で感じてはいるのだが、
そこは、素直になれないこの二人。
そんな気持ちを言葉には出す事が出来ずに、時折、お互いの姿をチラッと見合っては、また再び顔を逸らす。
時間が経つに連れて、二人のお互いを見る回数も、そして目をあわす回数も増えては来るのだけれど、
あかねとしては、やはりそれでも乱馬に話し掛けようとはしなかった。
やがてその内。
あかねはともかく、乱馬の方がそんな「物言わぬ空間」に耐え切れなくなったのか、
「おいッ…」
…そんな風に、ぶっきらぼうだけどあかねに声をかけてきた。
しかし、
「…」
本当はそれが少し嬉しいというのに、素直になれないあかねは、わざと聞いているMDのボリュームをあげて、そんな乱馬の声が聞こえないような素振を見せた。
「おい…聞こえてんだろ。こっち、向けよ」
そのMDのボリュームに負けないようにと、乱馬が更に大きな声であかねに話し掛けるも、あかねはまた更にMDのボリュームを上げて、そんな乱馬の声をやり過ごそうとした。
「…」
…当然のことながら、そんな事をされればせっかく声をかけてきた乱馬とて、気分を害すに決まっていた。
「…」
乱馬は、わざと机の音をさせるように荒々しく席を立つと、ゆっくりと教室の中を歩き、教室前方の教壇の上へと立った。
(…何よ。そんな所に立ったって、あんたの方なんか見てやんないんだから)
あかねは、そんな事を思いながらわざと前を向かないようにと、窓の方へと顔を向けて机へと突っ伏した。
乱馬は、そんなあかねの様子をしばらく覗っていたようだが、そのうち、諦めたのか元の席へと戻ったようだった。
「…」
(…でも、ちょっと意地悪だったかしら)
乱馬が再び席へと戻ったのを確認したあかねは、
頑なにそんな事を思った自分の行動を少し後悔しつつ、何気なくそれまで乱馬が立っていた教壇の方へと顔を上げ た。
すると…


「?!」


次の瞬間、自分の目に飛び込んできた「もの」に、あかねは思わず、ハッと息を飲んだ。
あかねの、目線の先。
教壇の、その後ろにある黒板。
その黒板に、妙に大きく、そして思いっきりヘタクソな字で、
『悪かった』
…たった一言、真っ白なチョークでそう書きなぐられていたのだ。
あかねは、その乱馬の行為自体にまずは驚いてしまった。
しかしもっと驚いた事があった。
それは…「悪かった」の「悪」という漢字。
…字が間違っていた。
「心」という文字に、何故だか「、」が二つも多く付けられている。
意地が悪い人が見れば、
「ねえ、あれって何て読むの?」
なんて。真顔で聞き返されても文句は言えない。



(…なんで、仲直りの為の大切な言葉、書き間違えるかなあ)
その間違っているのに力いっぱい書きなぐられているその文字を見ているうちに、あかねは乱馬が謝ろうとした、というその行為よりも、その字を間違えた、というその行為の方がおかしくなってしまった。
「…」
あかねがそんな事を思いながら乱馬のほうを見ると、
乱馬は、「やっと黒板に気がついたのか」とでもいいたげな顔であかねを見ていた。
乱馬は照れてしまっているようで、あかねが自分の方を向いたその瞬間、慌てた様子で、あかねから目をそらしてし まった。
…どうやら。
乱馬に至っては、
黒板に大きく文字を書いて謝った、というその行為自体に照れているので精一杯なのか、
実は書きなぐられたその字が「間違えている」という衝撃の事実には、全く気がついていないようだ。
「ふ…ふふ…」
笑っては悪い。もちろん、そんな事は百も承知だった。
しかし…そう思えば思うほど、あかねの口からは自然に笑い声が洩れていく。
「なッ…何がおかしいんだよっ」
…もちろん、
あかねがどうして笑い出してしまったのかなんて、自分の書いた漢字の間違えに気がついていない乱馬には分かる はずも無い。
人のせっかくの気持ちを踏みにじるような事しやがって…と、今にも真っ赤な顔で怒り出してしまいそうな乱馬に、
「うるさいわね。しょうがないでしょ。このMD、今面白い曲がかかってんのよ」
あかねは、わざとそんな嘘をついてやりながら笑いをこらえようと頑張った。
「う、嘘つけッ」
しかし。
MDから流れているのは、ただの流行歌。しかも、いつもあかねが部屋で聞いているようなお気に入りの曲。
さっきから、イヤホンよりかすかに洩れているその音で、乱馬とてそれぐらいは分かっていた。
なので、
「ほー、じゃあ、どの歌のどの部分が面白いってんだよッ?嘘つきやがってこのッ・」
あからさまに「嘘」とわかるその言い訳に、乱馬が更にムッとした表情をすると、
「嘘じゃないわよ。じゃあ、聴いたみたらいいでしょ?ほら」
あかねはそんな乱馬に、自分の耳につけていたイヤホンの片方を、差し出して見せた。
「え?」
乱馬は、そんなあかねの行動に少し戸惑ったようだった。
あかねは、そんな乱馬の戸惑いを承知で、もう一度、乱馬に向かって小さな声で呟いた。
「…ほら。イヤホンのコード、あんまり長くないんだから。…もっと傍に来ないと、イヤホン、耳に付けられないよ」
そして、自分の突っ伏していた机の隅にその片方のイヤホンを置き…再び乱馬とは反対側を向いた。

…それは、勇気を出して「悪かった」とあかねに謝ってきた乱馬に対しての、
あかねなりの「答え」。
そしてあかねなりの「歩み寄り」だった。
ちょっとぶっきらぼうな表現だけれど、
それが、素直に「あたしも悪かったわ」という事が出来ないあかねの、精一杯の努力だった。

「…」
…そうやって、あかねがイヤホンを机の上に置いた直後。
ガタン、と机が動く音がした。
そして、窓の方を向いているあかねの目には、徐々に近づいてくる大きな人影が捕らえられていた。
「…」
しばらくすると、徐々に大きくなりながら近づいてきたその人影は、あかねのすぐ隣の席あたりでぴたりと止まった。
フワリ、と、あかねの近くで人の気配もした。
「…」
あかねがゆっくりとその気配の方を振り返ると、ちょっと照れくさそうな、そしてバツが悪そうな顔をした乱馬が立っていた。
「…仕方ねえな。そんなに面白い曲だって言うんなら、聞いてやってもいいよ」
乱馬はそんな事を言いながら、今度は自分のいつもの席…あかねの隣の席へと座った。
「何よ、偉そうに」
「うるせーな」
そして、ガタガタッと机と椅子を動かして、あかねの座っているその席へとぴったりと横付けると、
「…ホント、短いコードだな」
あかねの机の隅に置かれたそのイヤホンを自分の片側の耳へと付けた。
「仕方ねえから、聴いてやる」
「仕方ないから、聴かせてあげるわよ」
…お互いに反対の耳にイヤホンを付けた二人は、そんな減らず口を叩きながらも隣に座って、
そして先程と同じように物言わず、MDの音楽に耳を傾けていた。
作品名:PM5:00 作家名:永野刹那