蕾(智明×一ノ瀬)
つい素っ頓狂な声を上げてしまった。
画面の向こう側の女の子の名前を出した途端、隣に座って黙っていた一ノ瀬が、なぜか急に腰に抱きついてきたせいだ。
「い、一ノ瀬?」
一ノ瀬は俺の二の腕あたりに顔を埋めていて、表情は見えない。
一ノ瀬の突然の行動に戸惑っていると、腰に回された腕が更にぎゅうっと脇腹を締めつけてきた。
「智明……こういう人、好き……?」
「え……? あ? ああ、まあ……。可愛いと思う、よ? おっぱいでかいし」
「…………」
「あの、一ノ瀬……?」
「…………」
「おーい、一ノ瀬ー?」
「…………」
理由は分からない。だが。どうやら一ノ瀬は拗ねているらしい。
「ちょっ……い、一ノ瀬? なんで拗ねてんだよ?」
「いちのせ、拗ねてない……」
「いや、どう見ても拗ねてるだろっ」
一ノ瀬の不可解すぎる行動に焦っていると、不意に一ノ瀬の頭が、いや、身体全体が細かく震えているのに気付いた。さらに、一ノ瀬が顔を埋めている俺のTシャツの二の腕あたりがじんわりと温かい水分で濡れていくのが伝わってきた。
これはもしかして、もしかしなくても……?
「ちょっと待て! なんで泣いてんだよ!?」
一ノ瀬の肩がびくっと震える。
「泣いてなんか、ない……」
どう聞いても涙声だ。涙声以外のなにものでもない。
「泣いてるじゃん!」
「ない……て……な……っ」
「何でこのタイミングで突然泣いてんだよ? 意味がわからん……」
「……っ、う……」
……仕方ねえなぁ。
俺は、子どもにするみたいにぽんぽんとてのひらで優しく一ノ瀬の頭を叩いてやった。
「ほら、ちゃんと言ってみ?」
できるだけ優しい声音で言うと、俺にしがみついて静かに泣いていた一ノ瀬が、鼻を啜りながら口を開いた。
「い、いちのせと、一緒のとき……他のおんなのひとのこと……褒めたり、しない、で……」