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【銀土】銀さんに乗っかってまじめ話の土方

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それから、戸を開けるときは手を使わず足に引っ掛けた。出て行ったばかりのふたりが戻ってきたものと思っているのだろう、奥からは声も聞こえない。警戒心ぐらい沸かせるべきだ。ここはこの国で一番物騒な場所、かぶき町なのだから。しかし別に万事屋がどうなろうと土方の知ったことではないので今まで一度も鍵のことを忠告したことはない。
それにあの男、戦争を知っていると言う。
万事屋と戦争の関係について土方が知っていることは「彼がかつてそこにいた」というたったそれだけだが、あるいはそれだけで十分でもあった。万事屋が馬鹿馬鹿しいまでに強いことにも納得したし、簡単に死なないことについても納得した。

納得がいかないのは、万事屋が親兄弟のいるわけでもないというこの国のこの町に終戦後わざわざやってきて、ここを住処に選んだことだ。


江戸の国は、人間にとって住みにくい。土方たちのようにここで仕事を与えられたのならまだしも、万事屋のように殆ど根無し草のような状態の人間が住めるようには出来ていなかった。こんなところよりも、もっと天人たちの少ない田舎の方がいくらかましのはずだ。土方だって、もしも真選組から外れたらこんな所へ長くは住まないだろう。



奥の和室へ続く襖を、今度は派手に音がなるくらい蹴り開けた。うおっと声を上げて飛び起きた万事屋は、あろうことかこの季節にまだこたつへ体を潜り込ませて昼寝をしていたようだった。怠惰を求めてここに来たはずの土方はしかし、そのあまりにだらけた状態に、盛大に眉を顰める。

「お前、餓鬼ども仕事に行かせて自分は昼寝かよ」
「その突っ込みはさっき新八にされたから却下だな。そして真昼間から仕事さぼってる役人に言われたかねえよ」
「俺はオフだっつーのこのスカタン」
「俺だってオフだ、何故なら俺がここの社長だから。じゃあ、おやすみ」


そのままもう一度後ろへ倒れこむので、土方は後ろ手に襖を閉めた。今居る家人に入室の許可を得るべきだったが先ほどの遣り取りにそれを咎める言葉はひとつもなかったし、何よりこの男を相手にそういう礼儀は無意味であるようにも思えた。そのまますたすた歩いていってこたつを背もたれに、万事屋の腹の上に膝を立ててどっかり腰を下ろしたら、おいおいと目を細められる。

「おま、重いんですけど」
「なら座布団出せや」
「いるなら買って来いよ。あれな、ちゃんと分厚いやつな」
「……おい、馬鹿の癖に風邪でも引きやがったのか?」
「…………」

ひとつ呼吸を置いて、万事屋は言った。

「だから、重いんですけどって言ってんじゃねえか」

自分の膝に頬杖をついた土方は、万事屋を見下ろしながら舌打ちをする。どうにも今日は上手くいかなかった。

「別に風邪じゃねーよ。ちょっと昨日の現場がハードでHPがゼロになっただけだ」
「は、たるんでんな」
「うるせーお前に固定給なんて言葉とは無縁の世界で労働してる人間のしんどさが分かってたまるか!」

声を荒げそれからぐったりとして、手の甲で目元を覆うようにする。おいこれは本当に参ってるんじゃないかと考えて、土方はその額に手を当てた。皮膚は暖かいが発熱はしていない様子なので怪訝に思う。
そもそもが、たかだか働き過ぎでこの体力の塊みたいな男が参るわけはないのだ。
土方は、万事屋の下瞼へ指をあて、ぐっと下へ引いてみた。顕になった目の内側の粘膜は真っ白く、血が足りてないときの色はこうなることを知っていた。

「え、何これ。突然進入してきた税金泥棒に、よく分からないけどあっかんべーさせられてんの俺?」
「そのままその舌噛んじまえ。……お前、貧血起こしてんじゃねーか」
「お前は血の匂いがするけどな」
「!」
「野暮だねえ。自分から乗っかってくるんだったら、シャワーくらい浴びて来いよ」

嫌いじゃねえけどと続けて、万事屋は笑みを浮かべた。土方は憮然とする。ここへは厭世をまとった怠惰を求めに来たはずなのに、これでは大判狂いもいいところだった。

「テメーからは、テメーの血の匂いがするようだけどな」
「いーの、銀さんは。依頼をどうにかするために必要がありゃバトるし、怪我したらそれはそれでしょうがねえだろ。お仕事なんだから。餓鬼どもには黙ってろよ」
「……物好きだな。何もそんな仕事選ばなくてもいいだろ」
「分かってねえなあ。今の世の中、特にこの国で生きるなら仕事選んでられねえのよ」

それから万事屋は、お前もそうじゃねえかと言うと、土方の膝頭へ手を置いてぽんぽんやった。
その辺りだ。土方の中で、風鳴りのような何かがごうごうとそこを駆け抜けた。

同情されたのかと思ったからだ。しかし、そのすぐ後で今のがそれとははっきり別の感情だったことを理解し当惑する。
土方は知っていた。自分のしている仕事が国を護るという大義名分の元にありながら半分以上良いように使われていることも、この男がかつて国を護るための戦争に加わって敗北したことも知っていた。彼についてそれ以上は知りえなかったが、知らされないことが何よりの答えだとも分かっていた。
「お前はどうして戦争へ行ったんだ」と尋ねることは到底出来なかった。それなので、もうひとつ違うことを尋ねてみる。

「お前、どうして江戸へ住もうと思ったんだ?」
「どうしてって?」
「もっとお前に生きやすい方法が、何処かにあっただろう」

そうすると、万事屋は遥か遠くを見るような顔をして見せた。
もう戻らない時代を振り返って眺めるような、まったく新しいものに出会ってそれを尊ぶような、掴みがたく得がたい表情を一瞬だけ浮かべた。土方が口をつぐんだっきりでいると、目を瞑って一言こんな風に言うのだ。

「ここが気に入っているからだろ」

「だから生き難くてもいい」と呟く。それから、俺は安穏に胡座をかいてるけど、国を護りきるってのはさぞかし骨が折れるだろうな。ご苦労なことだな役人って、とまるで他人事のように呟いた。骨が折れて血が吹き出して、たった一度の仕事で体力を失うしちょっとしたきっかけで心が折れて厭世的になる、ただの「人間」が到底出来ることではないと土方も知っていた。
いよいよ当惑が過ぎて途方に暮れ始める。万事屋は挙句、「ああ、お前、そういえばその役人だったっけ。隊服ってことは、午前中仕事だったのか? それも物騒な類の」と納得したあとで、ちょっと笑うようにして口を開いた。


「お仕事ごくろーさま」
「……そう思うなら発散させろ」
「何お前、セックスしに来たの? やらしーな」
「好きに解釈しろよ」


すると脚の内側を撫で始めた手にひっくり返されて、何が貧血だ。布団のめくれたこたつから暖かい空気でも漏れてくるかと思ったがどうやら電源は入れていなかったらしい。中途半端な怠惰だった。厭世的になって世捨て人のその怠惰にあやかりにここまで来た土方は、上手くいかないものだと息を吐く。

この男が吐いた言葉へ今のようにいつまでも縋るくらいだったら、それこそセックスでもした方がずっと有意義に違いない。頭を抱きこんでみると、万事屋が顔を上げる。

「なんだ」
「いや。お前元々は野良猫みてえに寄るな触るなって有り様だったのに、一回ヤったら途端スキンシップするようになったなと」