A cielo che avvolge una nube
自分の考えが正しいと思い込んでいるハルは、周りの空気が冷え込んできていることに気づかない。
ビアンキに否定されるものの自身の正義(笑)に酔った彼女の言葉は益々ヒートアップしてゆく。
そんな彼女を呆れた目で見つめたビアンキだったが、バカバカしいとばかりに軽く頭を振ると、いつの間にか用意されたクッキーを一口食べる。
娘が紅茶好きのために、紅茶に合うお菓子作りをかつて研究した奈々の手作りクッキーは市販のものよりも甘さ控えめだ。
しかし、紅茶との相性は抜群で、ビアンキの好きなオヤツでもあった。
しがみ付くランボを優しく抱きあげた奈々はニコニコと微笑みながらあやし、ビアンキと同じく紅茶を一口、口に含む。
ツナが家で紅茶を作る際、冷やしてでも飲めるよう、多めにアイスティーが作られる。
本人はストレートよりもミルクティーを好むため、自身用とは別の容器に家族用が備蓄されるのだ。
娘特製のアイスティーを飲みながら、普段のようにニッコリと・・・・しかし、確かな怒りを持って愛娘に言いがかりを付ける相手を見据えるのだった・・・・・・。
普段は温厚でおおらかな雰囲気を放出する人物からありえないほどの冷気が放たれている中、
テスト範囲の復習という名の勉強会は和やかに行われていた。
ツナが他者よりもいろいろと敏感であることを知っている花は、
先程から僅かに反応するツナの姿を見つめていた。
「・・・下、誰か来てるの?」
「え?」
「アンタ、分かりやすいほどに反応してるわよ。
まぁ、アンタがここから出ないってことは・・・相当気に入らないか面倒な相手なんでしょうけど。
そこらへんの線引き、結構ドライなところもあるみたいだし。
まぁ、誰彼構わず懐に入れるよりはいいんじゃない?」
「・・・花にはお見通し・・か。 気に入らないというより・・・・面倒な相手・・・かな?
思い込みの激しい子にちょっと目をつけられたみたいなんだよね。
その子が、どうも母様の逆鱗に触れちゃったみたいで、強制退去させられた・・・・かな」
「・・・小母様を怒らせるなんて・・・・ある意味凄いわね。 決して真似したくないけど」
花の言葉に苦笑いを浮かべたツナは、簡単に招かれざる客を説明する。
その言葉に納得した表情を見せないものの、
大方の事情を把握した花は溜息を吐きながらもいつも暖かな微笑みで出迎える彼女の母親を思い浮かべ、
その彼女を怒らせるとは・・・と呆れた表情を見せるのだった。
「・・・あの人は、お母様も見られていないところでイタイケな幼い心を洗脳しているに決まってます!
そのことをお知らせし、尚且ただそうとしている私が悪いなど・・・そんなことありえません!
こうなったら、徹底してマークし、その悪事を白昼の下に晒してみせます!」
奈々の微笑みによって沢田家より強制退去されたハルは、
キッとツナの部屋を睨みつけると自宅に戻り、
ストーカーも負けない行動力を見せるのだった・・・・。
最も、盗聴器や監視カメラなど到底一般的な中学生が揃えられるはずもなく、
これまでどおり尾行などの労力に注がれるのは、当然であろう。
「・・・リボーン、今回の件は貴方が発端でもあるから、私は手を出さないわよ。
面倒事だからって、だんまりで私に丸投げ・・・しないでね?」
「これくらいの対処、お前が何とかしろ」
「既に、私にワケの分からない火の粉が飛んでくるからそれなりに対処はしているけど?
全て私が対処するって・・・どうかと思うんだけど。
なんで、私が貴方の尻拭いとかしないといけないのかしら。
確かに、現在私は貴方の生徒でもあるけれど・・・。 それと今回の件、全く別件よね。
今回の件とは別に、貴方本当に仕事を全うしているの?
このところ、恭ちゃんが忙しそうで・・・そろそろ、
私の堪忍袋も限界値を突破しそうなんだけど」
勉強会の解散後、
リビングに降りたツナは今回の騒動を我関せずな態度をみせるリボーンに対して
多少思うところとイラついたため、きっちりと釘を刺す。
彼とはそれなりの付き合いのため、
自身が面倒だと感じたモノを無関係な者を無理やり関わらせて
対処させたりする悪癖を知っている。
ツナは彼のヒットマンとしての腕前はそれなりに信用の値すると思っているが、
人柄に対してはそれなりに思うところがあるため、完全に心を許していない節がある。
そのことに気づいているのは、
母である奈々とツナ至上を掲げる雲雀くらいで本人は気づいていないだろう。
ビアンキに対しては恋に盲目な点があるものの人柄は好感を持てるのか、
信頼しているツナである。
釘を刺してきたツナに対し、
苦虫を潰したような表情を浮かべるリボーンに冷徹な視線を向けるツナは、
今回とはまた別件についても苦言するのだった。
「そのことに関しては、まだ調査中だゾ。
俺は、その件で忙しいからお前で何とかしろと言ってるんだ」
「・・・その言葉、偽りはないみたいね。 まぁ、いいわ。 今回は、様子見ね。
・・・私の情報、どこかに漏れているようだったら・・・徹底的に漏らした先を洗い出さないとね。
私だけだったらまだしも、母様の情報も流れている可能性があるもの。
その時、貴方の進退にも関わってくるだろうから・・・・対処は迅速に・・・ね?」
「俺の進退だと?」
「当たり前でしょう。 貴方は私の教育とともに護衛としての任務もあったはずよ。
それを全うせずに情報操作もなっていないなんて・・・無能にも程があるもの。
まだ“その時”ではないから面倒な裏工作をしているのであって、
本来ならば家庭教師なんて・・・いらないんだから」
チッと小さく舌打ちをするリボーンは、
この地に潜む不穏な動きを探るべく出処を調査中だと告げる。
明らかに後手に回っているリボーンの態度に呆れた表情を見せるツナは、
ハルの件も含めて現状は静観する姿勢を見せるのだった・・・・・・。
――――― それぞれの思惑が交差する中、不穏な気配が彼女たちに迫る。
しかし、その気配もまた自らが踏み入れた地の特殊性を理解していない。
自身の半身たる大空を守るために、愛おしい《Firmament(大空)》を守るため、
誇り高き《Nuvola(雲)》が整備した彼女を守るための防衛ラインに引っかかる・・・
その時まで。
作品名:A cielo che avvolge una nube 作家名:遠野 真澄