銀魂集(一般)
透明な傘もいいかもね(阿+神)
「そういや、神楽はこんな日はあえて傘、ささなかったな。」
不意にそう言って、団長であるこの男は作ったような笑顔のまま、いつもの番傘を下におろした。
静かに降りそそぐ雨が、その顔や体を濡らしていく。
「お前ね、風邪ひくぞ。」
「なんだい、僕をひ弱な蛮族扱いかい?」
神威はニッコリとその濡れた顔を阿伏兎に向けた。
相変わらず笑顔なのに今にも何かされそうな勢いだ。
「いや、ここは地球だろ。何か合わねえ成分でもあるかも知れねえじゃねえか。」
「ふーん。ほんと阿伏兎は世話焼きだね。お母さんきどり?」
「やめてくれ、気持ち悪い。ほら、吉原での用事も済んだんだ、もういいだろ、団長。」
阿伏兎は先を行こうと促した。
神威はまた番傘をさして歩き出したが、全然違う方に行く。
「ちょ、どこ行くんだよ、団長。あんた、まさか・・・」
「んー、だってね、お侍さんの顔も最近見てないし?それにあのお兄さん・・・鬼兵隊の旦那、あの人もどうやらここに来てるらしいしね。」
「ちっ。いつもろくでもねぇもんにばっかハマってくれるよな。お守する方の身になってくれ・・・」
阿伏兎はそっとつぶやいたつもりだったが。
「ん?誰が誰のお守だって?」
気付けばとてつもなくニッコリとした神威がもう一方の手でいつの間にかちゃっちぃ傘を持ち、それを阿伏兎めがけて刺そうとしていた。
間一髪でそれをのがれた阿伏兎は呆れたように言う。
「ちょ、マジやめてくんない、そうやって虫をも殺さないような笑みで心底物騒な事するの、マジやめてくんない。てゆうか何だその日よけなんてまるで無視してそうな代物は。」
「ああ、これ?」
神威は何事もなかったかのようにニコニコしながら左手に持っていた傘らしきものを掲げる。
「これも傘みたいだよー?ビニール傘って言うらしい。ほら、ここの生き物たちは僕らみたいに日差しを気にする必要ないだろう?だから傘といえば雨さえ防げれば」
そう言いながらその傘を開く。
「こんなちゃっちいものでも十分らしいね。でも、これ、さしていても向こうが見える。いいね。」
番傘を下し、ビニール傘を上にして、自分も上を仰ぎ見るように神威が言った。
この団長が、何やらポエム的な事でも考えてんのか?
ありえねぇ、つか、気持ち悪・・・
「僕にポエムは似合わないかい?」
「ちょ、人の思考回路を勝手に読みとるな!」
「・・・何がいいってさ・・・?」
ニッコリと神威は広げたままの傘の先を阿伏兎に向ける。
「相手の血が噴き出すところを、自分を汚さずにしかと見れるんだよ?」
口元を上げたまま、だがうっすらと目を開いて、この物騒な危険人物はそうのたまわった。