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みっふー♪
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おじちゃんと子供たちのための不条理バイエル

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×月×日(2)

朝、起きたら天井板が知らない柄だったので半分寝ぼけていた私はえらいビックラこいた。
「……」
ふっかふか羽根布団の上で手旗信号みたいな体勢を取ってしばらく寝起きの思考回路をまとめていると、お勝手の方からおみそ汁のいい匂いがした。……だしは……うーんっとかつおとこんぶ、それから手際よくおねぎを刻む音、ぱっつんが作るみそ汁の匂いだとすぐに気付いた。
起き上がってみると、隣に敷かれていたはずの姉ゴの布団はすでにきちんと畳まれていた。ゆうべ私が脱ぎ散らかした上着も、畳んで枕元に置いてある。私はなるべく同じ様式で布団を片して部屋を出た。
「……おはよーございまぁす、」
大あくびに目を擦りながら居間に行くと、姉ゴがピンクのうさぎさん柄のタオルを私に差し出して言った、
「先に顔洗って、良かったら今日は髪の毛私がやってあげるわ」
「――、」
私はあくびを飲み込んで頷くとタオルを手に洗面台に向かった。通りがかりのお勝手に、割烹着を付けてくるくる動き回るぱっつんの後ろ姿が見えた。
顔を洗ってうがいして、寝癖のひどいとこだけ水で濡らして整えて、居間に戻ると卓袱台にはすっかり朝食の用意ができていた。ぱっつんがちょうど私の分のみそ汁をよそいでくれるところだった。
「かぐらちゃん大盛りでしょ?」
ちょっとお母さんみたいな言い方でぱっつんが訊いた。
「――、」
――ウン、私はこっくり頷いた。同じぱっつんなのに昨日までのぱっつんじゃないみたい、っていうか、……いやそもそもこれがいつものぱっつんであって、昨日までの無駄にトンがったぱっつんこそが別物で、それともあれはあれでやっぱりぱっつんでこれもこれでまさしく紛うことなきぱっつんで……、いかん、いらんこと考えてると頭がぐらぐらしてきた。けどまぁ、いずれにしてもぱっつんの作るみそ汁はデラうまいことに変わりはない。
「おかわり!」
私はぱっつんの前に空になったみそ汁椀を景気よく突き出した。
「……大盛りも並盛りもおんなじだね、」
みそ汁鍋の湯気で曇った眼鏡の下に苦笑いしてぱっつんが言った。ご飯茶碗と箸を手に、姉ゴもくすくす笑っている。……見たトコ志木寸家の今日の朝ごはんは完全単独ぱっつん担当、しかし私はつくづく当たりを引いたのだ、バイトシフトの件も含め、緻密な作戦あっての大勝利であると言えよう、私はひとり自画自賛した。
気分がいいとすこぶる飯もウマイ、ごはんとみそ汁とで、合わせて私は都合十杯ばかし立て続けに椀を重ねた。
「……」
ぱっつんは何も言わなかったが、どうにも氏の弁当分まで食い尽くしてしまった感があるのはさすがに気が引けたので、本日の昼食に関しては当方が責任持って引き受ける用意のある旨を通告する。半笑いにではあるが、氏も了承してくれた。
朝食の片付けがすんだのち、姉ゴのに手によるヘアセットながら視聴で朝のワイドショーのお天気おねいさんと本日の陰陽道コーナーをひとしきりハシゴしたあと屋敷を出る。うっかり姉ゴの部屋に置き忘れていた枕を、玄関先にジャストタイミングで姉ゴが届けてくれた。
朝陽の道を連れ立ってじむしょに向かう途中、立ち止まらないままぽつりとぱっつんが言った。
「……昨日は、っていうか今日はありがとう」
「えっ?」
空に浮かんだアイスクリーム型の雲に気を取られていたフリをして、私はとぼけた返事をした。ぱっつんがやや眼鏡を傾けて言った。
「――そうだね、ボクが行かなきゃ雑用係やる人いないもんね」
「雑用係、なんて人はウチのじむしょにはいませんよ」
遠くの空を見たまま私は言った。
「へっ?」
今度はぱっつんが間抜けな声を上げた。――エホン、勿体付けて私は答えた。
「ぱっつんはぱっつんの役、私は私の役、でもってサダちゃんはサダちゃんで銀ちゃんは銀ちゃんの役だヨ、」
「……」
ぱっつんは足を止めて眼鏡を俯かせた。くすくす笑い出したいのを我慢しているみたいな、……そりゃ確かに、いくらなんでもちょっと子供っぽかったかなーって、言った本人が思ってるくらいですから、――けど、ぱっつんが笑ったのはそういう意味じゃないこともちゃんと私にはわかる。
「――でもさ、」
笑うのをやめて、急に真面目な顔を上げてぱっつんが言った。
「そういうのって、たまにすごく窮屈じゃない?」
「え?」
私は再び訊き返した。考え考え、ぱっつんが言った。
「ボクはボクで、それは変えようのない事実で、確かにボクはボクなんだけど、だけどボクがボクだと思ってるボクはいったい誰にとってのボクなのか、ボクはどういうつもりでボクが、或いは誰かがボクだと思ってるボクをボクのふりしてボクはボクを――」
「ストップ!」
私は堪らずぱっつんを制した。ぱっつんは一瞬はっとしたような表情を浮かべたが、どういうわけか私の顔を見て盛大に噴き出した。
「んもー、何なの?」
私は少々気分を害しながら訊ねた。ゴメンゴメンと眼鏡の脇の涙を拭ってぱっつんが言った。
「だってかぐらちゃん、いまスゴイ顔してたし気に入ってるみたいだからだいぶガマンしてたけどそもそもその頭も大概スゴイし、」
「……。」
私は朝から姉ゴに結ってもらったギンギラ★メガ盛りヘアを押さえた。――ホンット失礼しちゃう、これのドコが笑えるって言うのさ、こんな星間クラスの超絶美少女と最新トッポいヘアの最強タッグつかまえて、これだからおされセンスのないヤツぁ、
「……銀さんにも謝んなきゃね、」
ようやく涙を拭い終えて、ぱっつんがしみじみ言った。
「つい言葉のあやって言うか、もっとガンガン斬り返されるかと思ったのに、思いのほか痛恨の一撃与えちゃったみたいでさ」
「おっさんつーのは、あんがい打たれ弱い生き物なんスよ、」
ぱっつんの隣を並んで歩き出しながら私は言った。……もう一人、おそらくいまぱっつんもそのことを考えているであろうおじさんのことを脳裏に思い浮かべながら。
(……。)
――んっ? 私はぱちぱち目を瞬かせた。いくら私のそーぞー力がハンパないからって、目の前にやけにリアル3D映像だなぁって、
「マ夕゛オさん……!」
立ち竦んだぱっつんの声は上ずっていた。
「しっ、シンちゃん――」
ハトマメ顔のおじちゃんの声も裏返っていた。
朝陽の照らす往来で、猫背の半纏グラサンおじさんとぱっつんと私とは、こうして巧まず鉢合わせたのだった。