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みっふー♪
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おじちゃんと子供たちのための不条理バイエル

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LESSON2



+++

「……なんで、……どうしてマ夕゛オさん、そんなのズルイ、あの子ばっかり、いつでもマ夕゛オさんに心配かけて、心配されて……!」
砂利道のぬかるみに膝を着いて制服の眼鏡少女は泣き崩れた。
「シンちゃん……」
おじさんは咄嗟にかける言葉を見失った。グラサンに雨を受けて立ち尽くすおじさんの傍らで、改造セーラー服の(美)少女が気怠げに肩に垂らした赤毛を撫でる。
「……」
眼鏡少女が顔を上げた。噛み締めていた唇が震える声を紡ぎ出す。
「……私がいつでも聞き分けのいい良い子だから? だからマ夕゛オさん、私のことなんか放っといても平気だと思ってるんでしょう?」
「シンちゃん、」
困惑した表情におじさんが歩み寄ろうとした。頭を振って少女は拒んだ。
「私だって、私だってやろうと思えば悪いことくらいできるんだからっ」
少女は砂利道に落ちていたガラス片を拾い上げ、紺ブレザーの袖から覗いた白い手首に押し当てた。
「氏んでやる! マ夕゛オさんの前で氏んでやるから私!!」
「シンちゃん!」
おじさんが慌てて止めに入った。少女は泣き喚きながら抵抗した。でたらめに振り回した腕がおじさんの髭面を掠めた。
「!」
少女は手にしたガラス片を取り落した。おじさんは頬を押さえて薄笑んだ。堪えていても片方の眉が苦しげに引き攣っている。
「ごめなさ……っ、マ夕゛オさん私……、めなさ……っぃ、」
眼鏡少女は青ざめた顔色にしゃくり上げた。
「いいんだ、俺がドジしただけのかすり傷さ、」
おじさんは自分に言い聞かすように少女の肩に手をやった。その控えめな掌の温もりに、強張っていた心が解けていくのを少女は感じた。
「――、」
と、退屈そうな無表情を崩さずにいた赤毛の少女が、安易な心変わりを嘲笑うかのように声を立てた。
「……バカバカしい」
「――、」
少女の涙が止まった。おじさんが振り向いた。
「……じゃーいっそ仲良く三人で付き合っちゃう?」
不敵な笑みを浮かべておさげねーちゃんが言った。
いまどき地面を引き摺りそうなロンスカに年季の入った木刀を背負い、セーラー服から外した赤いスカーフタイは腕章風に左腕に巻かれている。学園一のヤンキー、ナゾの転校生、闇の暗幕に鎖された出生の秘密、といった類の派手めのオプションも後からつけようと思えばいくらでも追加できそうだ。
「……、」
ロンスカねーちゃんの背後から威圧めかして吹き付ける生温い風に手をかざし、眼鏡少女は息を飲んだ。制服こそ今風のミニ丈スカートにブレザー型だが、勝っているのはそこだけで、眼鏡に黒髪のツイン三つ編みのしっくりさ加減といい、生まれついての造作の地味さは如何ともしがたい。キャラの髄からザ☆普通の属性が染み出しているのだった。
「アハハハハ!」
風が唸るようなロンスカねーちゃんの高笑いが、なんかそういう設定にありがちな工場跡地みたいな、煤けたがらんどうの廃墟に響いた。
「アタシが週4でボロぞーきんみたいにおじさん捨ててあげるから、アンタはせっせとそれ拾って洗って乾かしてアイロンかけてやってりゃいいじゃないのよさ、」
――しみったれた地味子のアンタにはお似合いよ、ロンスカねーちゃんが吐き捨てるように鼻で笑った。
「はっ、ハァァ?!」
何勝手に週4てサラッと一回多く取ってんのよッ! 眼鏡少女は泣きっ面に精一杯ガンをトバしてキメてやった。
「……。」
どうやら二人の因縁は、グラサンおじさんを巡る複雑な関係にあるようだった。頬にガラスの擦り傷を負ったおじさんは、垂れ込める鉛色の雲からぽつぽつ落ち出した雨と風とに打たれながら、ロンスカねーちゃんの足元でいつの間にやら湧いて出たお縄を食らってどんよりしていた。
力なく項垂れるおじさんの後頭部を木刀の先でかいぐいかいぐりしながらロンスカねーちゃんが言った。
「……で、アタシがポイしたヤツにあんたがしばらく優しくしてやって、おじさんがまたチョーシ扱いてうざくなってきたあたりでテキトーにヤキ入れてアタシにまわしなよ、ちょっと遊んでやって、またギッタンギッタンにのしてアンタにくれてやるから」
「っぇ、ぇぇぇぇ?」
縛り上げられていたおじさんが弱々しく首を回しておさげねーちゃんに訴えた。水滴の伝うおじさんのグラサンには申し訳程度の抗議の色も含まれていた。ねーちゃんはにっこり微笑んだ。
「このおじさん、髭面グラサンだしたまにスーツ着せりゃ恐ろしく似合うし見かけだけどえらいどえすぶってるけど、実際芯からどえむなのよ」
「……」
おじさんがまたがくりと頭を垂れた。眼鏡っ子はギリギリ血が滲むくらい拳を握って呟いた。
「……そんなこと、今さら言われなくたって知ってるさ……わのよっ!」
「しっ、シンちゃん……?」
おじさんが眼鏡っ子の方を見て上ずった声を上げた。
「――へぇ、」
ロンスカねーちゃんが好奇心に駆られた一歩を踏み出した。「そうなのおじさん?」首を回してねーちゃんが訊ねた。
「ぇえ? えええっとっ、」
テンパったおじさんの返事は要領を得ない。ロンスカねーちゃんの糸目がうっすら開眼しかけた。
「ちょーーーっと待ったぁぁ!!!」
そこへ学帽に半パン学ランコスのショタっ子が何の前振りもなく現れた。ダラダラ降ったり止んだりしていた雨はショタっ子の登場とともにカラリとあがることもなく、ただ一時的にドン曇りになった。
「……、」
――エホンエホン、勿体ぶった咳払いのあとでショタっ子は言った。
「にーちゃ……ねーちゃんあのねわた……、ボクねっ、んーとね、ボクねあのねあのおじちゃんにすこんぶ代貰っておじちゃんの頭げしげしするばいとしてたの。おじちゃんすごいヒーヒー言って喜んでたの。そんでまた次もよろしくねってすこんぶ代いっぱいくれたの」
「……」
眼鏡っ子が膝の腕で揃えた拳に痛いほど爪先が食い込んだ。てゆーかいい加減立たないと靴下越しでも砂利が脛に食い込んで痛い。
「――なるほど、」
再び糸目に笑みを浮かべてロンスカに……ねーちゃんが言った。
「つまりおじさんは両手にいたいけなじょしこーせーW湯呑みで転がすだけじゃ飽き足らず、中ボーショタっ子にこづかい渡してヒーコラ頭踏ませてた、と」
「やめてくれ!」
髭面を震わせておじさんが叫んだ。そんなんじゃないんだっ、そんなんじゃなくて、ただ俺は知らないうちに巻き込まれただけなのに、なのにそやって言葉にするとものすっげ際物扱いじゃないかっ!
「流されるばっかりではっきりしないおじさんが悪いんだよ」
にっこり、音まで聞こえるような微笑を湛えてねーちゃんが言った。
「に……ねーちゃん!」
ボクっ子ショタっ子がロンスカねーちゃんの袖を引いた。
「見て見て、おじちゃんを三人でマワすスケジュール立てたよ! これでバッチリね!」
「……」
ねーちゃんはボクっ子の差し出したメモ帳にさっと目を通した。
「月・水・金が俺……アタシで火・木・土がメガネくんで日曜がオマエで毎週おじちゃんにゆーえんち連れてってもらう、と……、――却下だな」
「ええーっ?!」