T&J
ハリーはドラコの姿かたちも好きだったし、きつすぎる性格も大好きだった。
彼の中でドラコの存在は、とても大きなウエイトを占めていることは確かなことだ。
しかしそのドラコが近頃、自分に対してかなり怒っていることを、薄々ハリーは理解していた。
顔を合わせるたびの辛らつな言葉や、けんか腰の態度。
ドラコがそんな態度を取るのは自分だけなのが、ハリーは嬉しくてしょうがなかった。
だからつい口元がゆるむのが、心底許せないらしい。
「バカにするな!」
いつも最後にその言葉を投げつけて、ドラコは去っていく。
ハリーの薄笑いを別の意味に捉えているドラコは、肩を怒らせ早足に靴音を立てて、乱暴に歩き去るばかりだ。
傷つくのならば、気分が悪くなるのならば、近づかないようにすればいいものを、目の前にハリーがくると、まるで条件反射のように前に飛び出してしまうのだ。
律儀に、何度も、毎日休みなく。
毎回のことなので、誰も二人の仲裁に入ろうというものはいない。
実はそれがハリーの密かな楽しみでもあった。
だから、ドラコの前をわざと何度も横切ったり、スリザリン生がよく通る廊下を歩いたりもする。
その涙ぐましい努力に親友のロンは、全くあきれ返っているけれど、それがハリーの楽しい日課だった。
薬学教室の中でドラコは、その薬品の出来具合に満足したのか蓋をすると、スネイプ教授の前に一番に提出した。
慌ててネビルをかまっていて遅れたハーマイオニーもすぐさま完成させて、2番目に教授の前に小走りで駆け寄り、薬品の提出をする。
席に帰るついでのように、ハーマイオニーはチラッとドラコの顔を見たが、彼は後片付けに専念していて、彼女には全く気づかない。
彼女は頭がいいドラコのことを少しライバル視していたが、ドラコは彼女には少しも興味がないようだ。
そういうこともなぜか、ハリーをとてもいい気分にしてくれた。
(自分だけが、ドラコの中で特別なんだ)
この確信にハリーの心はとろけそうになる。
そのハリーの口元には、全くしまりがない。
自分の中の考えに夢中になっていたハリーは目もうつろで、鍋をかき混ぜている手を少しも動かしてはいなかった。
「……おい、焦げているんじゃないのか、ハリー!くさいぞ!うわっ、たまんねっ!」
ロンがハリーの鍋から上がってくる悪臭に悲鳴を上げる。
ふたりが恐る恐る覗き込むと、鍋の中には真っ黒になった、元薬品だったものが、ブスブスといやな匂いの煙幕を上げて、底にこびりついているだけだった。
「…………」
ハリーはどうしようもなく手の施しようのない物体の前でうなだれた。
「グリフィンドール、あと5点減点だ」
顔をしかめて、またスネイプ教授は重々しく宣言したのは言うまでもないことだった。