T&J
5章 ハリーのショック
放課後、スリザリンの談話室でパンジーとクラップたちはソファーに座って、おいしそうなカップケーキを食べようとしていた。
午後3時のオヤツとしては最適なものだ。
チョコチップにオレンジピールに、シナモンなど、とても柔らかそうで、ふわふわに焼きあがって皿に盛り付けられている。
匂いにつられてゴイルが早くも1つを食べて、2つ目、3つ目といきなり口に押し込もうとしているのを、パンジーは容赦なくその手をたたいて、「食いすぎだ」と注意した。
ゴイルはしぶしぶその指示におとなしく従う。
いつもありきたりの光景だった。
ドラコは寮の部屋から降りてきてふらりと談話室に立ち寄ると、アールグレイの葉が入ったケーキを、今まさに食べようとしていたパンジーの横に座りこむ。
彼女はゆったりと椅子の上で大きく足を左右に開いて、あぐらをかいているので、スカートから形のいいひざや太ももがあらわになっていた。
短すぎるスカートははっきり言って奥まで見えいるのだが、別段彼女はそれを隠そうとはしない。
それの下から、スカートと同じ丈のやや短めの紺色のズボンが見えていた。
短すぎるスカートの下はつまりはそういうことだ。
最初は寮の誰もが彼女のスカートをスカートとも思っていない大胆すぎる行動に慌てたものだが、下に色気の全くないショートパンツを穿いていることが判明してからは、誰も驚かなくなってしまった。
下手すれば短いスカートから半ズボンのすそが見えていることも多々あるぐらいだ。
今のような夏場は半ズボンで放課後は過ごしてしまう彼女は、スカートのままであぐらをかくことなんて、見慣れた光景のひとつだった。
「何か用事だったのか?」
「……いや、別に」
1時限目をサボったドラコは、その日一日、どこか心ここにあらずという雰囲気が漂っていた。
何をしてもぼんやりとしている。
「パンジー、話があるんだ」
ここにはほかにクラップたちもいるのだが、まるっきり壁紙の一部のように無視して、パンジーにのみドラコは思いつめた顔で語りかけた。
「――いったいなんだ?改まって?」
簡潔にパンジーらしい口調で尋ねてくる。
ドラコは隣の2人掛け用の椅子に移ると、足を投げ出して長々と横に寝そべり、上を見つめたまま何も言わないので、パンジーは肩をすくめて彼が話し出すまで、カップケーキを食べることにした。
ドラコを焦らせても何もならないし、ここは長年の勘で、思いあぐねている彼が話し出すまで、待っていたほうが得策だと思ったからだ。
やがてドラコは内ポケットから白い紙を取り出して、パンジーに渡した。
「読んでいいのか?」と彼女は合図を送ると、それにドラコはうなずく。
わずか3行の文章だ、すぐに読み終えて、パンジーは怪訝そうな顔をドラコに向けた。
「なんだお前、この手紙をどこで拾ったんだ?廊下のすみか?また悪趣味なことをしでかすつもりだろ?もらった相手が不注意で落としたのかもしれないが、ポッターが書いたこの手紙はポッターに戻すべきだ。またこれをネタに、いじめてからかうつもりなのは分かっているんだぞ。もう、いい加減に止めろ。お前はハリーが相手だと、あまりにも行動が子供っぽすぎるぞ。まだ分からないのか?」
ドラコはそれに答えようとはしなかった。
ずっと視線を天井に向けたままの瞳に覇気がなく、どこか曇っているのを見て、パンジーは肩をすくめた。
「……そうか、やっと気づいたんだな。これを見て、お前も相当ショックだったんだな」
パンジーは立ち上がると、ドラコの背もたれの後ろに立って、相手を見下ろした。
「だからずっとわたしは言い続けていただろ?おまえはポッターのことが好きなんだって。やっとこの他人へ送った手紙を見て気づいたのか?好きだからいじめるなんて、もうわたしの弟のヘンリーでもしないぞ。まだ9歳だというのに好きな女の子に花束を贈ってアプローチしていたのに、お前ときたら……」
パンジーは肩をすくめて、ドラコの耳元にささやく。
「まったくのガキだ」
黒髪ですみれ色の瞳が、ニッと笑う。
ぷいとドラコは顔を反らした。
「その手紙は落ちていたんじゃない。もらったんだ」
「誰から?」
「……もっ、もちろんポッターから、直接」
「へぇー、よかったじゃないか、ドラコ!お互いが両想いで!」
「何がいいんだ!これのどこがっ!僕はあいつのことなど、これっぽっちも好きじゃないと、何度も言っているだろ!」
ドラコは頭を抱えてうなる。
顔を覆った指のあいだから、じろっとパンジーを見た。
「やはりもこの手紙がラブレターに見えるのか?ほかの国の言葉とか、別の意味があるとか、見えない呪いが込められているとか、そんな風には見えないのか?」
ドラコに指摘されて、パンジーはしげしげと白い紙を光に透かしたり、インクの跡を指でなぞって確かめたりしたが、何も変化は起こらなかった。
「やはり、呪いなんかは一切ないと思うぞ。これは普通の交際を申し込むときの手紙だ」
「うわーっ、やっぱりそうなのかっ!」
ドラコは頭を抱えている。
「ラブレターなら、たくさんもらっているだろ?なにを今更」
「それとこれとじゃ、まったく意味が違うだろ!」
「――ああ、好きな相手からもらったんだったな。なんと返事をしていいのか迷っているのか……。この照れ屋さんめ!」
パンジーは嬉しそうに笑ってドラコをからかう。
ドラコはほとんど涙目になりながら「ちがうっ!」と言って、何度も否定した。