俺と君と夏と陽炎
それ以降何度も世界が眩んだけれど、彼の死は避けられなくて、眩む度に彼を失った。
代わりに与えられるのは誰かの「嗤い声」だけ。
何十、何百回目の死を遂げた子供が目の前にいる。悲鳴と蝉の声に紛れながら、俺は呟いた。
「……また、駄目だったよ」
本当はとっくに気づいていた、けれど一緒にいたかった。
君と一緒に、繰り返す夏の日の向こうに、行きたかった。
君と一緒に、繰り返す夏の日の向こうで、生きたかった。
だけどもうやめるよ。これ以上君を傷つけさせないから。
君を、君だけでも、このくだらない夏の日の向こうに連れていくから。
細い体を押しのけて、横断歩道に躍り出る。それと同時にトラックに体がぶち当たった。
真新しい血飛沫が驚愕に染められた帝人君の瞳と、自分の体に乱反射する。
激痛、なんて言葉では足りない痛みが体を襲う。だけど今までこの痛みを帝人君が受けていたことを考えればどうってことはない。
「ざまぁみろよ」
馬鹿げた夏を繰り返させた嗤い声に対して、吐き捨てるように笑う。
(これで、君はこの夏の日の向こうに)
その隣に俺はいないけれど、どうか幸せでいて。
二〇XX年八月XX日。
俺の夏は 終わった。