らぶこめ
約束したとおり、柔造は蝮と映画を観た。
映画のタイトルは、大蛇大襲来、だ。
蝮が映画の宣伝ポスターのまえで足を止めたのは、ポスターの中の大蛇に眼が釘付けになったからだった。
それをわかったうえで、柔造は蝮を誘ったのだった。
柔造としては映画の内容がどんなものでも別にかまわなかった。
だが、大蛇目当ての蝮は違う。
なにしろ大蛇は人類の敵として登場するのだ。
大蛇は、主人公である正義の味方と戦うことになる。
それで大蛇が勝ち主人公が負ける、わけがない。
苦戦の末、主人公が勝った。
そして、大蛇は倒されたのだった……。
映画館を出た。
蝮の眼は赤い。
映画の最後のほう、大蛇が主人公に重傷を負わされたあたりから、柔造の隣の席で蝮はうつむいた。
泣いているのを隠したかったのだろう。
「……蛇さんばっかりが悪かったんやないはずや。蛇さんにも言い分があったと思うわ」
蝮は柔造に顔を見せないようにして歩きながら、映画の感想を言った。
「ああ、そーやな」
「せやのに、言い分も聞かんとあんなことするやなんて、ひどいわ」
「うんうん、そうやなぁ」
柔造は穏やかに同意する。
蝮が知れば怒るかもしれないが、微笑ましく感じていた。
「なぁ、蝮、どっか落ち着いた店に入らへんか?」
さりげなく誘ってみた。
八百造が心配したような下心はない。
ただ、このまま帰ってしまうのは、別れてしまうのは、惜しい気がした。
「……うん」
蝮は素直にうなずいた。
まだ映画について話したいのかもしれない。
自分とは目的が違うかもしれないが、一緒にいられる時間が延びて良かった。
そう思い、柔造は笑った。