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もう二度と…

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 もしお兄ちゃんの事を諦めるなら…
 私を芳雪くんの彼女にして下さい」

思いがけない言葉にびっくりしてしまう。
千夏ちゃんが俺を好き?全然気づかなかった…

「…ごめん、俺は例え吉野の記憶が戻らなくても、
 あいつの面倒を見てくつもりなんだ。
 大学生の時、あいつに言ったことがあるんだ。
 路頭に迷ったら、俺が養ってやるって。
 まぁあいつの貯金額はもう相当あるだろうから、
 路頭に迷うことはないけどな…」

「じゃあお兄ちゃんが女の人と結婚したらどうするの?」

「そうだな…
 その時俺はやっと吉野から解放されるのかもな」

考えたくないけど、今となってはその可能性も十分ある。
でも、俺はきっと見守るだけだろう。

「芳雪くん、本当にお兄ちゃんが好きなんだね…
 あんなどうしようもないお兄ちゃんに負けるなんて、
 芳雪くんも見る目ないな~…
 分かった、今は諦める。
 でも、お兄ちゃんの記憶が戻らない場合は
 どうなるか分からないもんね。
 まだまだ希望は捨てないから、覚悟しといてね!」

千夏の前向き発言に思わず笑ってしまう。

「ははは、ありがとう。
 気持ちは本当にうれしいよ」

「じゃあ私1度病室に戻るけど、芳雪くんはどうする?」

「俺も一緒に行くよ」

2人で病室に向かうと、そこに柳瀬がいた。
何やら吉野に話しかけてて、
吉野はものすごく驚いた様だった。

「2人で何を話してたんだ?」

「別に…とりあえず千秋は今日で退院できるよ」

「そうか…良かったな、吉野」

「ありがとう…色々心配かけてごめんなさい」

「本当だよ、お兄ちゃん。
 次は早く記憶を取り戻してよね」

「…はい、努力します」

とりあえず、俺と千夏、柳瀬の3人で
退院するために片づけを始めた。

「そういえばお兄ちゃん、これからどうするの?
 実家に帰る?それとも自宅に戻る?」

「とりあえず一回自宅に戻るよ。
 自分が何処に住んでるかも把握したいし」

「そっか、分かった。お母さんにそう伝えとくね。
 でも落ち着いたら、一回実家に帰ってきてよ」

「うん、分かった」

「自宅に戻るなら、俺が荷物運んでやるよ」

「いいの?芳雪くん、頼んでも」

「あぁ、どうせ近所だし、帰るついでだから」

「ごめん、じゃあお願いします。
 私これから用事があるからもう行くね。
 じゃあまたねお兄ちゃん、
 芳雪くんも柳瀬さんもありがとうございました」

そう言って、千夏は去って行った。

「俺も次の仕事があるからもう行くわ。
 じゃあな千秋、病院出てから無茶するなよ」

「あぁ、ありがとう」

柳瀬も去って、俺は吉野と2人きりになる。

「じゃあ行こうか、吉野」

「うん、ご迷惑おかけします」

そう言って頭を下げてきた。

2人で吉野の家に向かいながら、
記憶が戻りそうか聞いてみた。

「吉野、少しは何かを思い出したか?」

「ごめん、やっぱ全然思い出せないみたい。
 日常生活的なことは大丈夫なんだけど、
 人物はさっぱり…」

「そうか、まぁ無理に思い出さなくてもいいから、
 しばらくゆっくり休め」

そして吉野の家に着いたが、
やっぱり思い出せないみたいだった。

「ここが俺ん家?結構立派な所に住んでるんだな」

「とりあえず中に荷物置くぞ」

そう言って、合鍵でドアを開けると、
吉野が驚いた顔をした。

「あれ?俺の部屋なんだよね?
 なんで羽鳥さんが鍵を持ってるの?」

「……お前の担当だからな、
 お前の身の回りの世話もたまにやってたんだ。
 料理とか洗濯、掃除とか」

「そうなの?ごめん…かなり俺、
 羽鳥さんに世話になってたんだね…」

「気にするな、これからも面倒みてやるから」

そう言って、頭を撫でる。
吉野は腑に落ちない顔をしていたけど、頷いた。
と、いきなり吉野はとんでもないことを聞いてきた。

「そういえば、さっき病室で聞いたんだけど…
 俺と柳瀬さんが付き合ってたって本当ですか?!」

「は?!柳瀬がそう言ったのか!?」

「はい…さっき羽鳥さんが病室に入ってくる直前に。
 本当なんですか?その…男同士なのに」

その言葉を聞いたとき、胸が痛んだ。
やっぱそうだよな…
そう言う言葉が出てくると分かってたから、
言わなかったのに。
柳瀬のやつ…!!
怒りが顔に出てしまったらしい。
吉野が怖々と聞いてきた。

「羽鳥さん、どうしたんですか…?
 俺、なんかまずいこと聞きましたか?」

「あ、あぁすまない…何でもない。
 悪いけど、俺は知らないんだ」

「そうですか…すみません、変な事聞いてしまって」

「いや、こちらこそ悪かった。別に怒ってないから。
 ところでおなか空いてないか?
 空いてたら、何か作るけど」

昨日のうちに食材を買って冷蔵庫に入れておいたので、
吉野がリクエストしたやつを作ってやろう。

「じゃあ…ハンバーグが食べたい」

「分かった、作ってやるから少し待ってろ」

料理を作っていると、吉野が話しかけてきた。

「羽鳥さん、さっきの話なんですけど…
 俺どうしたらいいんでしょうか?」

「…柳瀬の事か?お前はどうしたいんだ?」

「いきなり言われてもピンと来ないのが正直な感想かな。
 男同士で恋人だったと言われても、
 全然想像出来なくて…」

「じゃあ今は無理して考えるな。
 そのうち答えが出てくるさ」

俺は感情を押し殺して答えた。
本当は俺が恋人だ!思い出してくれ、吉野!
そう言いたかったけど、言えなかった。
1番最初に無理に俺の気持ちを押し付けた。
それをまたやることは俺には出来ない…
もしかしたら吉野は柳瀬を選ぶかもしれない。
でもそれならそれで、しょうがない気がした…

食事も終え、後片付けをする。
吉野を見ると、何か考え事をしているようだった。

「吉野?俺はそろそろ帰るけど、後は大丈夫か?」

「あ、うん、ありがとう」

「じゃあ戸締りとか気をつけろよ。
 何かあったら、携帯に連絡してくれ」

そして、吉野の家を後にする。
きっと俺の今の顔は、
かなり落ちこんだ顔になっているんだろう…



[吉野side]

羽鳥さんが帰り、
1人自宅に残されると寂しさが襲ってきた。
そしてさっきの羽鳥さんの様子を思い出す。
俺が柳瀬さんの事を相談した時、ものすごく怒ってた…
その後、今度は少し悲しそうな顔…
彼の目がいつも俺に何かを訴えてるような気がする…
何だろ?彼を見るといつも焦燥感にかられるのに
それが何故かが分からない…胸が締め付けられる気がした。

そして、柳瀬さんの事もどうしたらいいんだろう?
本当に俺と彼は恋人同士だったのか?
全然思い出せない…
羽鳥さんの言うようにしばらく考えるのはよそう。
俺は仕事部屋らしき部屋に入った。

「ここが俺の仕事してた場所…」

やっぱちゃんと思い出せないが、少し何かが頭によぎる。

(……さっさと面白いネームにしろ‥!)

(…分かってるよ!面白いって言わせてやるから待ってろ!)

これは…いつの記憶なんだろう?
会話の内容から、相手は羽鳥さんだよな…
記憶を無くしてから接した羽鳥さんの態度とは全然違う記憶に
作品名:もう二度と… 作家名:涼那