【かいねこ】ハジメテノコイ
ついた先の公園は、まだ早い時間ということもあってか、人影はまばらだった。
ぽつりぽつりとベンチが置かれていたが、あいにくと先客で埋まっている。邪魔をするのも悪いと、茂みの近くにレジャーシートを敷いて、二人で座った。
「今日、晴れて良かったね」
「本当に。あたしの日頃の行いがいいからですね」
胸を張って言われ、思わず吹き出してしまう。
「酷い!何で笑うんですか!」
「ごめんごめん」
「あたしはマスターと違って、品行方正なんです!」
「ふふ、そうだね」
持ってきた水筒とまだ青いみかんを並べて、
「いろはさん、どれがいい?」
「えーと。これにしようかな?この酸っぱそうなのは、マスターにあげましょう」
一生懸命みかんを選ぶいろはさんを見て、自然と笑みがこぼれた。
「もう!また笑う!あたしはマスターと違いますよ!!」
「うん、ごめんね」
「カイトさんにみかん剥いてあげませんからね!!」
ぷうっと膨れるいろはさんの頬を両手で挟み、
「いろはさんに怒られるの、初めてだね」
最初きょとんとしていた彼女は、にーっと笑うと、
「本当だ!じゃあ、許してあげます」
「ありがとう」
機嫌を直したいろはさんと、お互いにみかんを剥いて交換する。
「はい、カイトさんどうぞ」
「ありがとう。いろはさんもどうぞ」
「ありがとうございます!」
暖かな日差しの中、二人並んでみかんを頬張った。
「まだ酸っぱいかな」
「でも、美味しいです」
それから、マスターのこととか、昨日見たテレビとか、たわいもないことを話す。
今日一日で、どれだけの「初めて」をあげられただろう。
いろはさんは、少しでも満足してくれたかな。
声を上げて笑う彼女の横顔に、俺も微笑んだ。
作品名:【かいねこ】ハジメテノコイ 作家名:シャオ