純潔で焦がして
◇
「あ、高倉弟!こっち!」
やっぱり来てくれた。
あれから何度かメールで『行かない』といった旨のメールが送られてきたが、心を鬼にして無視を決め込んだ。
そうすれば、きっと律儀な晶馬のことだから、断るにしても一度はこの場所に来てくれると思ったからだ。
案の定暗い影を落としながらも、俺の元に来てくれた。
実は、それだけで満足する安い心。我ながら単純馬鹿だなと思う。
「いや~楽しみだなぁ」
「…行かない。それだけ言いにきた」
それじゃあ、とくるっと背を向け、足早に去ろうとする腕を慌てて掴む。
思っていたよりも華奢な細腕に、胸がざわめく。
「ここまで来てそれはないだろ!?行こうよーしょーおーまーくん!」
「おもっ、離れろよ」
がばっと抱き付くと、顔を顰めながらもちゃんと抱き留めてくれる。
そんな優しい所が好きだ。
「偶には気分転換も必要だと思うわけよ」
腕を組んで、うんうんと一人頷くと、晶馬がげんなりした表情で項垂れた。
「だったら、山下だけ行ってきたらいいだろ。僕は今そんな気分じゃ…」
「だから、そういう時に行くのが気分転換になるんだって!な、もうここまで来たら覚悟決めろよ」
「いや、でも」
「ほら行くぞ!」
「え、ちょっ!」
腕を掴んで無理矢理引っ張る。
抵抗すればいいのにそれをしない理由は、やはり晶馬には今空気を入れ替える事が必要だからだと思う。
そうだとするならば、俺は晶馬の酸素になりたい。
必要だ、と腕を伸ばしてほしい。だけど、きっと晶馬にとって、俺は取るに足らない存在なんだろう。
虚しい、と全身で叫ぶ。
現実に目を背けるようにして、俺は頼りない掌に熱を重ねた。
◇
「あ、これいいかも」
土産物を漁る晶馬が、ぽつりと呟く。
背後からどれどれと覗き込むと、可愛いキャラクターのストラップが握られていた。
この地域のご当地キャラクターだった筈のそれを呆然と眺め、ああ、と合点がいく。
「陽毬ちゃんにお土産か?」
「うん。せっかく来たんだし、何か買って帰ってあげたいから」
嬉しそうに微笑む姿を見て、無理強いしてでも連れて来て良かったとはにかんだ。
一応は、当初の目的を達成した、といったところか。
―――白状するなら、一緒に行こうと誘ったのはそれだけが理由ではない。
何故なら下心が無かったわけではないからだ。俺だって健全な男子高校生なのだ。
逆上せて蕩ける瞳に頬を熱くさせたり、二人きりの夜に思いを馳せてみたり、それは仕方ない事だと思ってほしい。
現に湯上り姿に思わず欲情したりもしたけれど、楽しそうに笑ってくれる事が一番の願いだったから、今は嬉しさばかりが募る。
今まで経験したことのない純粋な想いに、戸惑いは隠せない。
隣に並んで同じものを手に取る。
愛らしいキャラクターのくりっとした瞳を見て、晶馬を重ねる。
気付かれぬようにそっと横顔を盗み見、やっぱり好きだと胸が疼いた。