メフィスト・ワルツ
煙草にマッチで火をつけながらアーサーが言った。マッチはいちいちつけるのが面倒だ、だから禁煙しやすい。というのが彼の他者からすると理解に苦しむ持論だが、彼が煙に手を伸ばさない日は滅多になかった。
「……何ですか?」
若いというよりは幼いといっていい顔に期待を寄せる人を裏切る程、低い菊の地声が一層低くなった。珍しくあからさまに不機嫌になった菊の態度を無視してアーサーは続けた。
「あの顔だったらその手のヤツらが大喜びだろ。俺もあいつなら金払ってもいいな」
菊の顔から一切の感情が消えた。アーサーは最近わかったが、それが菊の怒っている表情なのだ。
「あの子に手を出したら」
「殺します」
洗練された言葉だった。声も、喋り方も。全てが美しいと思った。
アーサーは芸術に興味がない。良いと思うもの、美しいと思うのをただ欲しいと思うだけだ。
だから、この男が欲しいと思った。