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幼なじみロマンス

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蝮は黙っている。
けれども、柔造はなにも言わない。蝮が答えてくれるのを待つ。
どちらも喋らないのは、眠っている蝮を背負って歩いていたときと同じなのに、今は沈黙が妙に重く感じられる。
「……放課後、塾の女の子らに呼びだされたんや」
根負けしたように蝮が話し始めた。
「幼なじみやからって、なれなれしくしすぎやって言われた。志摩が迷惑してるって言われた」
「俺はそんなこと、いっぺんも言うたことないし、思ったこともない」
「志摩は人気があったから。あの子らも憧れてるみたいやった」
つまり、その少女たちは柔造と親しい蝮が気に入らなくて、嘘をついて、非難したということか。
少女たちがそんなことをした理由は自分に対する好意であるらしいのを知り、柔造の胸に苦いものが走った。
「……それで、他になんかされんかったか?」
「……」
「蝮、こうなったら、全部、話してくれ。頼む」
「……」
「蝮」
「教科書が無くなって探したら、ゴミ箱に捨ててあった。せやけど、志摩、そんなことは今さらや」
今さら。
たしかに、そうだ。
蝮がされたことを聞けば、それをした者たちへの怒りがわいてくるが、それでも、やはり、今さらだと思う。
祓魔塾にいたことから今まで、時間がかなり経っている。もう昔のことなのだ。
それに、あのころの自分が今よりも若かったように、蝮を呼びだしたりした者たちも若かった。未成年と呼ばれる歳だった。
若くて、青くて、間違える。
自分だって、その経験があるのだから、若いからゆるされるとは思わないが、あまり責める気にはならない。
だが、今さらで終わらせられない部分もある。
自分の教科書がゴミ箱に捨てられているのを見て、蝮はどんな心境だっただろう。
想像すると胸が痛む。
「すまん、な」
「なんで志摩が謝る」
「気ィつかんかったからや」
「志摩の見てへんところであったことやねんから、気ィつかへんであたりまえや」
「そういうことやない」
柔造は穏やかに言う。
「俺が、おまえの変化に気ィつかへんかった」
あのころ、まったく気づかなかったわけではない。
名前ではなく苗字で呼ぶようになったことも、少し距離を置かれるようになったことも、気づいてはいた。
しかし、京都を離れて祓魔堂に入塾し、新しい環境になじまなければらなかったし、覚えなければならないこともたくさんあった。
幼なじみの多少の変化も、自然なものとして受け止めていた。
「つらかったやろ」
気づいても、流してしまって、大切なことに気づかなかった。
「おまえがつらかったのに気ィつくことができへんかった」
時はもどらない。
けれども、もし時がもどるなら、自分の教科書が捨てられているゴミ箱のまえに立ちつくす蝮の横へ行きたいと思う。
ひとりで耐えている蝮に寄り添いたいと思う。
「……そんなん、仕方ないことやわ」
少し間があった後、蝮がぽつりと言った。落ち着いた声だった。
その体重を感じながら、柔造は歩く。
もしも蝮が酔ってなければ、背負うことはなかっただろう。背負うことができなかっただろう。
背負いたいんやけどな。
そう柔造は思った。
蝮は他人を頼ろうとしない。人が嫌いなのではなくて、むしろその逆で、だから、まわりの負担になるようなことがしたくないのだろう。
そんな蝮にとって、自分は、頼り、甘えられる存在になりたい。
……そうなれるとしても、かなり時間がかかりそうだが。
まあ、時間がかかってもいいか。
柔造は蝮を背負って、ゆっくりと歩いた。





作品名:幼なじみロマンス 作家名:hujio