永遠の答え
『雪男!』
テストの点が良かったことを妬まれて、テスト用紙をビリビリに破かれて。
ひっくひっくと泣いていた自分に、正義感の強い双子の兄の燐は当然のごとく怒り狂って。
級友たちに殴りかかっていって。
それを雪男は泣きながらすがりついて止めたのだ。
『やめて、兄さん! いいんだよっ……』
『何がいいんだよ? コイツらおまえのテスト破ったんだろ!? コイツらが悪いんじゃん!!』
『いいんだ……いいんだ。だから、やめて。お願いだからっ……』
『雪男、おまえ……』
級友の襟首をつかんで殴りかかろうとしていた燐が、その手を止めて、不思議そうに雪男を見る。そして、またがっていた相手から退くと、雪男に向き直って、怒鳴った。
『なんで怒らないんだよ、雪男!!』
それは……。
雪男はそのとき、泣きべそをかくばかりで、答えられずに、燐に呆れられてしまったけれど。
でも、それは……なぜ怒らないのか、その答えはあった。
それは、『怖い』。
怒って我を失うことが怖い。兄みたいになりたくない。自分までがケンカなんかして修道院を追い出されたら困る。誰かが兄を止める役目を負わなければ。怒ってなんの得がある? 相手を傷つけて、自分も傷ついて、相手にも嫌な思いをさせて、痛い思いをさせて、自分もまた同じように……そして、それだけじゃない、周囲の人にもつらい思いをさせて、神父さんにも迷惑をかけて、他の人たちにもいっぱい迷惑をかけて……それで、どうなる? 自分はいったいどうなってしまう? 自分だけじゃない、その相手も。それに……兄は。
兄が、いつも自分の分まで怒ってくれる。兄の言ってくれることは、してくれることは、本当は自分の言いたいこと、したいことだ。
……でも、自分は……。
怖い。怖い。怖い。