永遠の答え
「おおおおおっ」
雄叫びをあげて、ダッと駆けてくる、悪魔に憑りつかれた級友。
雪男はハッとして、拳銃を撃つ。わざと外して。威嚇射撃だ。そして、とっさに横に転がる。
「くっ……」
平気で級友をなんのためらいもなく襲う少年。
そして、銃を向ける、自分もまた。
(醜い……)
成績が上だとか、運動が自分よりできるとか、周りがどうだとか。
(そんなことで……)
ここまで、人は人を憎めるなんて。
(怖い……)
バッと起き上がり、再び相手に銃を向ける。
壁にぶつかり、すぐには動けない相手。
詠唱騎士の声が微かに聞こえ、雪男はホッとする。
大丈夫、うまくいっている。
腕の震えに気付き、息を吐いて、もう一度相手に向けてしっかりと銃をかまえる。
……何を怯えている? 僕は……。
『目ぇつぶれ、雪男!!』
兄の声がふいに耳の奥に響くようによみがえる。
こどもの頃に、聞いた声、言葉だ。
兄がこちらに向けて一生懸命に手をのばしていた。
勇気づけるような、まぶしい笑顔で。
『目ぇつぶれ、雪男!! 見えなきゃ怖くねーだろ!?』
見えなければ怖くない……。
そうだ、見えなければ、怖くなかった。
彼の自分に対する嫉妬も憎しみも恨みも、死んでほしいと願われてまでいることも。
何もかも、確かに、見えなければ怖くなかった。
雪男はギュッと目をつぶる。
こどもの頃、手をつないで歩いてくれた兄。
その手の温かさ。力強さ。頼もしさ。
平気だった。目を閉じていても。怖くなかった。
兄がいた……。
目を閉じていたら怖くない。
だが……。
『目を開けろ、雪男!!』
雪男はカッと目を開けた。
これは、自分の声だ。自分の言葉だ。
『目を開けるんだ!!』
ダッと自分に向かって駆けてくる敵の姿。
それを、真っ直ぐに見る。じっと見据える。
相手の自分に対する憎しみも、死すら願われていることも。
『人の醜さ』も『弱さ』も。
すべてを受け止めるように目を見開いて立つ。
……ここに兄はいない。目をつぶっていても、手を握って前に進ませてくれる相手はいない。
……いや、違う。今度は自分が兄にこの手をのばすと決めたときから……。
もう、怖くても、目は閉じない。
「……悪いけど、僕はおまえになんか殺されてやらない」
キッとにらみつけて言う。
「うぉおおおっ」
相手が怒り狂って吠える。振り上げられた手を雪男は冷静に見つめる。
だが、その手が振り下ろされることはなかった。
祓魔師の詠唱が終わった。