永遠の答え
目の前で、級友の青い炎に包まれていた体が、一瞬にして炎が大きくなり、燃え上がるように見える。
苦しげに身もだえる級友。
それを、雪男は無言で見守る。
炎は次の瞬間には消え去り、少年はがくりとくずおれた。
「大丈夫かい? 雪男くん」
出てきた年輩の詠唱騎士に、雪男は微笑んでうなずく。
「ええ。なんてことありません。これくらいは……」
拳銃をしまい、悪魔が祓われ、ただの少年に戻った級友に近付く。
頭の側に膝をついて、級友を眺める。
それを、心配そうに見守る詠唱騎士。
物陰から、もうひとりの祓魔師が現れる。
そこに近付く詠唱騎士。
「囮役は、まだ若い雪男くんにはつらいものだったのでは? 相手が相手ですし……」
ひそひそと現れた祓魔師の耳にささやく。
眼鏡をかけたヒゲ面の男はニヤけて言った。
「いやぁ、こういうのは、知っといたほうがいいもんだ。あいつはもっと強くならなくちゃいけないからな」
「そんな……しかし……」
「いいんだよ。これからだっていろいろ言われるんだ、あいつ。この俺が言うのもなんだが、できた息子なんでね。まあ、教える先生がいい先生だからな。あっはっは」
男の大きな笑い声に、級友の様子を見ていた雪男があきれ顔で振り向く。
「神父さん……」
『神父さん』と呼ばれた男は、雪男に歩み寄り、悪魔がついていた少年を見下ろす。
そして、雪男に軽く言った。
「どうする? 一発殴っとくか?」
雪男は小さく微笑んで、うつむいて返した。
「……いいえ。恨んでは、いませんから」
「そうか。……燐なら、まず『くだらねぇこと言ってんじゃねぇ!』とかって、怒るんだろうけどな」
雪男はプッとふき出す。
「ははっ。兄さんなら……そうするだろうね。でも、きっと兄さんは……兄さんなら……」
言いかけて、笑みが苦いものに変わる。結局、雪男は違う言葉を用意した。
「兄さんなら、そこまでの成績を取れるか心配」
『違いない』と言って神父は笑う。
雪男は、自分の手をじっと見る。
あの頃は、兄がつないでくれた手。
ぎゅっと、握りしめる。
今は何も握っていない手を。
……いつか、もし……。