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リスティア異聞録 2章

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ツヴェルフ隊が謁見の間を出ていきローブの男がそれに続こうとした時、ミューズが誰にともなく呟いた。ローブの男はぴたりと足を止める。

「あの娘達、あの銀髪……レアの……」

レアとはライオットにかつて所属していた戦乙女の名前だ。
「混沌の王事件」でアヴァロンへデーモンが侵攻してきた時、獅子奮迅の武働きで大きく戦線を押し上げたことで有名である。この事件は他国への情報統制のために公式な記録には残されてはいないが、まだ記憶に新しい者も多いだろう。この他にも各地に残る強過ぎる魔物を封印した魔石を壊して回った武功もあり、日頃これらに悩まされていた行商人や旅人からの人気も高い騎士であった。そう過去形である。彼女は先の戦で命を落としたのだ。

少し彼女の話をしよう。彼女が本来名付けられた騎士としての名前はヌルであった。彼女はライオットにおける初めての騎士であった。正確には彼女以前にも他の騎士団から中途で預けられてライオットの騎士として出陣した者も居たが、正規登用をしたという意味では彼女が初めてであった。彼女は訓練中に魔術師をも上回るほどの魔力を持っていることが発覚した。その報告を受けたローブの男は彼女を呼び出してこう持ちかけたのである。

「お前には才能がある魔術師にならないか? 騎士としての名を与えよう」

おそらく、ライオットはアヴァロンの中でも特に魔術信仰が根強い。言い換えれば魔術師以外を差別しているとさえ言える。この時、ライオットは魔術師には「騎士としての名」を与え、魔術師以外の者は登録番号で呼ぶ決まりを設けていた。その決まりは現在も続いている。

「魔術師にはなりません。他の人が出来ることをわざわざやる必要はないし… でも、騎士としての名前は欲しいですね。では、これでどうでしょう? 魔力を使わないと名が貰えないのなら魔剣士になります。魔力が無いと扱えない剣ですね。あれを扱います。名前は……そうですね……レアで。道端に落ちている石だって同じように見えても同じ物は無い。どれだって珍しいはずです。珍しいけれど、珍しいのは皆一緒。皆同じように特別。そんな当たり前を願ってレアです。私が活躍すればライオットに入った魔術師でない人も、もうちょっと夢が見れるようになる。そんな風になれば良いな…… って」

そう言って、今のツヴェルフと同じように真っ直ぐ過ぎて危うい目を持った戦乙女は、その宣言に違わぬ実績を残した。そして鳴り物入りで戦場に立った三度目、ガラスの古戦場におけるログレスとの会戦で彼女は帰らぬ人となった。後日、届けられた彼女の死体は正視に耐えるものではなかった。惨たらしければ惨たらしいほど、それは何よりものメッセージとなる。そういう類いの死体。ローブの男はその死体の前で、泣くでもなく、何を言うでもなく、ただいつまでも立ち尽くしていたという。

「レアを…… 重ねているのか、もう一度レアを作ろうとしているのか、という質問でしょうか? どちらも否定も肯定も出来かねます。正直、自分でも分からないのです。質問は以上でしょうか? では、失礼します。」

ローブの男が出ていくと、叙任の式の時に立ったままであったミューズは玉座に腰をかける。そして、また誰にとはなく小さく笑いながら呟いた。

「……業が深い」
作品名:リスティア異聞録 2章 作家名:t_ishida