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リスティア異聞録 2章

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ツヴェルフはアヴァロンに古くから続く名家の生まれであった。代々続く優秀なウィザードの家系で、祖父も祖母も父も母もウィザードであり、そして当然ツヴェルフもそうなるはずであった。幼き頃のツヴェルフも自分自身でそうなるはずだと思っていたし、そうなりたいと思っていた。何よりもその才能が有った。そして魔力に対する強い信仰もあり、魔力を持たない人間に対する差別意識は人並以上であった。出来て当然のことを出来ない人間が居るということ。それが恐しかったのである。そういった人間には世界がどのように見えているのか? そして彼等から見て出来て当たり前のことで自分には出来ないことが有るのではないか?それを恐れられるのではないか? 蔑まれるのではないか? 違いはやがて恐れへ、恐れはやがて憎悪へ。幼き日のツヴェルフは憎まれる前に憎むことで自らの心を守ろうとしたのである。

ある日ツヴェルフは屋敷を抜け出してアヴァロンとユニオンの国境、バルフォグ湖南へと出掛けていった。何か目的が有った訳ではない。ただ何か悪いことをしてみたかった。それだけのことである。バルフォグ湖は美しいと聞く。しかし、何故か行ってはならないことになっている。理由は単純で戦争をしている相手の領土だからなのだがツヴェルフにはそれが理解出来なかった。理解できたけれどもしたくなかったのかも知れない。美しい場所でかつ行ってはならない場所。そう言われたら行ってみたくなる年頃。年の頃としては十と三つ。分別を学び、分別を解し、しかし分別に逆らいたいと思う年頃。屋敷の馬房で厩務員の爺さんに上目遣いで頼み込み、内緒で一頭貸してもらって一駆けしてきたところである。

「うわぁ…… 綺麗…… とても綺麗だわ……」

ツヴェルフは近くの木に馬を縛っておくと、湖岸に腰をかけ、履き物を脱いで、水に足をつけ、遊んでいた。水遊びにも飽きてきた頃、丁度、日も傾きはじめてきていた。そろそろ、馬に水を飲ませて帰ろうと思った時、馬の騒ぐ声が聞こえた。そちらの方を見ると4人の野盗が馬を盗もうとしているのだった。

「おお、こいつは良い馬だぜ。芦毛の牝馬か……、まだ黒い毛の方が多いし若いみたいだな。良い値段で売れそうだ。野郎ども、儲かったら夜は宴会だッ!」

野盗が馬の値踏みをしているところにツヴェルフが駆けつける。

「待ちなさい! 馬は盗らせないわッ!」

ツウェルフが凄むが、いくら少女が凄んだところで場数を踏んできた野盗が怯えるはずがない。飄々とした様子で野盗の一人がツヴェルフに近付くと、

「おや、こりゃお嬢ちゃんの馬だったのかい? 悪かったねぇ…… これ、さっきおじちゃんの馬になっちゃったんだよ。残念だった……ねッ!」

と言いながらツヴェルフの頬を張り飛ばした。ぶっ飛んで倒れ込んだツヴェルフの少女特有の線の細い白い生足を見て野盗は生唾を飲み込む。

「おい、野郎共! このお嬢ちゃん幾らくらいになると思う?」

「って言ってもガキですからね。娼館じゃ買ってくれないでしょうし、好色な貴族位しか買い手は居ないでしょうが…… 見なりも良いですからね、足付くの怖がって買ってくれないんじゃないですかね」

「じゃあ、この場で犯り捨ても損は無い訳だな? ちょいと若過ぎるが…… ここのところご無沙汰だったし、たまにはこういうのも良いんじゃねぇのって……おわッ!」

ツヴェルフはいつの間にか起き上がって野盗の腰から剣を奪って、こちらに向けて構えていた。ツヴェルフも騎士の家の生まれである。魔術師の家系とは言え、幼ない頃から剣技は仕込まれている。とは言え少女が刃物を構えた位では場数を踏んできた野盗が怯むはずがない。勿論ツヴェルフは魔法の方が得意なのだが、この状況では魔法詠唱など始めても、唱えている間に胴と首を斬り離されてしまうだろう。

「おいおい、大人しくしてれば、ちょいとお股が痛いだけで済んだのに、それじゃもっと痛い目にあうぞぉ?」

野盗の一人がおちゃらけながら一歩前に出るとツヴェルフの剣が一閃。腕がボトリと落ちる。ツヴェルフは初めて人の肉を斬る感触に戸惑いながらも、返す剣で野盗の太股を斬り裂き構え直す。

「どぼろじぃぃぃぃぃぃ、うでぇぇぇ、ででででででで、いでぇぇよぉぉぉッ!」

腕を抑えて転げ回る野盗の首を踏みつけながら叫ぶ。

「早く、馬を返してどこかに行きなさいッ!」

「おいおい、どうすんだよそいつ、もう使い物にならねぇぞ? 可哀想じゃねぇか……え? もう、謝ったって許してやんねぇぞッ!」

野盗の中の一人が剣を抜いてツヴェルフに襲いかかる。しかし、所詮は野盗の我流の剣である。しっかり基本から仕込まれているツヴェルフには遠く及ばない……が、体力と経験と人数の差でジリジリと追い込まれていく……。

「へっ、さっきまでの威勢はどこ行ったんだよ! 楽に死ねると思うなよ? 百回犯してから殺してやる。いや、さらに孕ませてから殺してやる!」

怒り狂って訳の分からないことを言いながら無茶苦茶に剣を振り回す野盗の刃がツヴェルフに迫った時、その野盗の首が血を吹きながら高く飛んだ。呆気に取られたツヴェルフがそちらを見ると剣を構えた金髪の聖騎士の姿が見えた。どうやら見回りをしていたユニオンの騎士が助太刀に入ってくれたようだ。

「火急だった故、名乗りが後になってしまったが…… ユニオン ヴァーミリオン騎士団 ルーシェ隊所属 ルーシェ 参るッ!」

野盗はルーシェ隊に2名斬殺され残りの2名は投降して捕縛された。勝負が決した時、ルーシェは剣を天高く上げてこう叫んだ。

「敗者には最大限の敬意をッ!」

他の隊員達は野盗に向けて敬礼をする。

「ハイシャニハサイダイゲンノケイイヲ……?」

ツヴェルフがよく分からないという顔でポカンとしていると、返り血を拭いながらルーシェが話かけてきた。

「勇敢なお嬢さん、怪我は無いかい?」

剣を避けきれなくて受けた切り傷や、避ける時に地面に擦った膝のかすり傷は有るが、どれも怪我というほどのものではない。ツヴェルフはルーシェに頭を振って答える。

「えっと、私は大丈夫です。ところで、敗者には最大限の敬意を……って、どういう意味ですか?」

「そのまんまの意味だよ。彼等とは袂を分かち敵同士になってしまったけれども。だけど本当はどちらが正しいのかなんて分からない。だから戦う。戦うことでしか、自分の生きる道を通せない。そして、己を信じて戦い、正しさを競うことは誇り高きことである。逃げずに負けるその時まで戦ってくれた敵こそ尊敬すべき相手なのだ。だから敗者に敬意を表す。騎士道の基本じゃないかユニオンの子供ならば……って」

そこまで話して、ルーシェはようやくツヴェルフの着ているアヴァロン貴族の服に気付いた。

「って、あちゃー…… 君、アヴァロンの子供だったのか…… 間違って国境越えてきちゃったのかな…… うーんうーん…… 国境まで送ってあげたいところだけど…… 下手に僕がついて回って大事になると厄介だし…… まあ、ここから先は安全だろうし…… 見なかったことにしておいてあげるから早く帰りなさいッ!」

というとルーシェはそっぽを向いてしまった。
作品名:リスティア異聞録 2章 作家名:t_ishida