リスティア異聞録 2章
ツヴェルフが振り返りもせずにトレースドールに剣を渡すとトレースドールは火の中に飛び込み、今しがたツヴェルフが行ったアクセルブレードを再現して、刹那の安寧の時を得た敵陣を再び地獄絵図へと変えた。トレースドールが火の中からひょこひょこと出てくるとツヴェルフに剣を返して、そのまま土に返る。
火の中から満身創痍のルーベウスがリリアを抱えて出てきた。ルーベウスが大事そうに足元へ聖職者を寝かせると。
「まだ、負けていないッ! まだ、俺は戦える!」
そう言いながらクレセントアクスを突き出して突っ込んできた。ツヴェルフは避けきれないと判断して大剣で受ける。
(ッ……なんという力! ラストワンがかかっているのに、受けきるので精一杯じゃないか)
「お前が戦えるのは分かっている。だからと言って、この人数相手に勝てると思っている訳ではないだろう? 投降しろ。アヴァロンは捕虜に寛大である。そちらの聖職者はまだ息が有る。投降すれば、手当てしよう」
確かにルーベウスは強いがツヴェルフとツヴァイで一気に撃ち込めば、なんとかなるかも知れない。とは言え無事で済む保証の無い相手だ。勝つことが目的であって殺すことは目的ではない。出来ればこのような優れた武人をこのような場で殺したくはない。ツヴェルフのそのような想いが通じたのか、ルーベウスはリリアの方を一瞥すると悔しそうに跪いてクレセントアクスをその場に放った。
「投降する…… 俺はどうなっても構わない。リリアは、リリアだけは助けてくれ……」
ルーベウスが男泣きする中、ウェンディがリリアの様子を一通り見終って、
「パッと見たところ重症ではないわね。アクセルブレードを受け止めた時に脳震盪になったようね。その場で倒れられたから煙に巻かれなかったのが不幸中の幸い。安静にしておけば、すぐに目を覚ますと思うわ。そっちの聖騎士と狩人は……残念だったわね……」
と、言いながらルーベウスの肩を叩く。
ホリーにルーベウスを預けて更に進軍を続けることにしたツヴェルフ隊。遠ざかるルーベウスの背中に向けて、ツヴェルフが敬礼をする。
「敗者には最大限の敬意を!」
ツヴァイ、ケフィ、ウェンディがルーベウスに向けてアヴァロン式の敬礼で続いた。
作品名:リスティア異聞録 2章 作家名:t_ishida