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リスティア異聞録 2章

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激戦の後の数日の休暇、短か過ぎるとは言え、戦中である。贅沢は言えない。各々が思い思いの休暇を過したあと東征に戻る。そして、ガラス古戦場に向かう道中、ソレスタンの森で夜を明かそうとしていた時のことである。ツヴェルフとツヴァイが焚き火を囲んでいた。歩き旅は慣れても苦手なようで、日中文句を言い疲れたのであろう。ケフィ、ウェンディは既に寝てしまっていた。先ほどから熊の香付肉をひっきりなしに口へ運び出し続けるツヴァイへ向けてツヴェルフが呆れた声で言った。

「ツヴァイぃ……、そんなに食べてばっかりいると太るよぉ……」

ツヴァイがビクっとしてツヴェルフの方を見て反論する。

「ええー、こんだけ歩いたし、これから戦場で槍をぶん回すのにそれは無いでしょ」

反論しながらもどこかビクついた様子のツヴァイに、さらに呆れたツヴェルフが返す、

「って言っても限度があるでしょ。昼間歩いてる時から、私が見かけただけで30個くらい食べてるじゃない? なんか、誰も見てなければ大丈夫だよねって感じで遠く見ながら、私は食べてない、食べてないって顔をしながらペロっと食べて、飲み込み終わると、なんでもない、なにも食べてないよって顔をしながらも、なんだか名残り惜しいそうに素知らぬ雰囲気で指ペロって舐めて
たでしょ! っていうか、太る太らないの前に、そんなに食べてたらなんかの病気になるでしょ!」
更に動揺したのかツヴァイがアワアワしながら、

「ええッ!?見てたのぉ? ケフィとウェンディには言わないで!!二人だけの秘密ね!」

ツヴェルフの真面目過ぎる気性のせいか動転してるだけの返答に対して律儀に、

「いや、別に良いんだけれど。私が黙ってたからって太らないってことはないでしょ!」

「そうなんだけどぉ…… なんかぁ…… ほら、恥ずかしいっていうかぁ……」

ツヴァイが少し泣きそうな顔をしながら語尾の消えていくような喋り方をしているので、ツヴェルフはツッコミ過ぎたか…… と罪悪感を感じていた。少し間をあけて疲れた腿裏の筋を伸ばそうと前屈をしながら、少し優しい声でいじけ気味のツヴァイに、こう切り出す。

「まあ、なんか分からなくはないけど…… ツヴァイは可愛いなぁ、羨ましい……っていうか、私が男ならツヴァイを彼女にしてる!太らなければだけどッ!」

ツヴェルフが "彼女にしてる!" って言いながらツヴァイの胴体に抱きつくと、

「じゃあ、太ったら私がもらうッ!そして豚小屋で飼育するッ!」

っと、寝ていたはずのケフィがいつの間にかツヴァイの首に抱きついている。思わずツヴァイが素っ頓狂な声を上げる。

「えっ!?ケフィ、起きてたの?ひょっとして、さっきの話聞いてたッ!?」

「聞いていたゾ! 私が聞いたからには太るぞ! ツヴェルフ、残念だったな、ツヴァイは私がもらう。そして豚小屋で飼育する!」

ケフィは、ツヴァイの首にぶら下がってブーブー、ブーブーといささかしつこいレベルで絡んでいる。

「ちょっとぉ、ケフィ、あんまりからかうとツヴァイが可哀想だよぉ…… ツヴァイは戦争終わったら素敵な彼氏捕まえてカワイイお嫁さんになるのが夢らしいのに、なんでケフィの家の豚小屋で飼育されるのが確定事項になっちゃってるのよッ!」

ケフィが意地悪な表情で、ぶら下がったまま続ける。
「平民出の魔力無しがねぇ」

「ケフィッ!」
ツヴェルフがケフィをキッと睨む。

ケフィがぶら下がるのをやめてツヴァイとツヴェルフの方に向き直って神妙な顔をして、

「冗談よ。少し悪質だったと思うから謝らせて。でも、大丈夫。良い夢だと思う。そして、その夢は叶う。うちで飼育できないのは残念だけれど。実際問題、そんなことを強く気にしてるのは頑固な老人と、それを拠り所にしてる貴族だけ。皮肉なことではあるけれど、長引く戦争がもたらしたモノの中で唯一よかったモノじゃないかしら。魔力だけで戦争は勝てない。これにみんなが気付き始めたってこと。戦争が終わる頃、いつになるのか分からないけれども、その頃にはきっと、微塵もそんなものは残ってはいないと思うゾ」

「ケフィ……」

ツヴェルフの目に涙が輝く。自分の望む世界がそこまできている。その世界へ手を伸ばして手繰り寄せる力、その力が欲しい。一刻も早く、それを手に入れたいと、今、かつてない程に強く思った。

「まあ、良いじゃない。ツヴェルフ、ツヴァイ。あなた達が、生まれがどうであろうと、可愛くて、強くて、最高だってのは、この私が誰より知っている。他の部隊でも同じことが起きているはず。戦争が終わったら世界は絶対に変わる」

作品名:リスティア異聞録 2章 作家名:t_ishida