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座敷童子の静雄君 3(続いてます)

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座敷童子の静雄君 afterのafter 後編4



エプロンを身に纏い、戸棚を開いて青ざめる。
シチューの素の買い置きが、無い!!

眉間に皺を寄せて考えた。
となると、手段は二つ。
(……コンビニに走るか、それとも小麦粉からホワイトソースを作るか……)
前者を取れば、十数分だけど静雄さんをこの家に一人残して外出する事になり、後者を取れば苦手な洋食だ。
レシピがまだうろ覚えなので、味の保障があんまりない。

(んー、仕方ない。静雄さんの様子見て決めよう)

そーっとキッチンから居間を覗けば、彼はTVもつけず、咥えタバコのまませっせと布団の包装紙を引っぺがし、ホットカーペットの値札タグも指で引き千切っていた。
そして持参した携帯灰皿にぽんと吸いかけを置くと、布団と毛布とカーペットを両脇に抱え、のっしのっしと帝人の部屋へとまっしぐらに行ってしまう。

「………へ?………」

目が点になって固まる。
彼は、お婆ちゃんとの約束を律儀に守ってくれる善人で、可愛いチビ静雄が大きく成長した人。
それにとっても働き者なのは判った。
けれど、……ちょっと待て!! 
あの部屋には今、洗濯した三日分の下着が干してあり、まだ取り込んでなかったのに!!

羞恥にじわっと涙が溜まり、帝人の顔が、みるみる内に真っ赤に染まる。
(静雄さんってば、何勝手してるんですかぁぁぁぁぁ!!)

直ぐにあわあわと小走りになり、後を追いかけた。

「あ…、あの、静雄さん、お仕事お疲れでしょうから、ゆっくりしててください。それ、私が後からやります!! 申し訳ないですから!!」
「ああ? いいからお前はメシやっとけ。こんなもん直ぐ終わる」

彼はいつもの通り帝人の顔を見ないよう、そっぽを向いて話しつつ、ひょいっとコタツを丸ごと縦に壁に立てかけ、カーペットをパッパと広げた。
……流石力持ちだ。
それに手際も良い。

帝人がうだうだ言っている内に、きっと彼の作業は終わるだろう。
それに気にしているのは彼女だけ。
説得を諦め、がっくり肩を落とし、そろそろと気配を殺して窓際へと向かった。
カーテンレールに引っ掛けてあった、プラスチック製の丸い洗濯物干しをひょいっと手に持ち、下着ごとくるんと一まとめに丸め、こそこそとクローゼットの中に突っ込んで隠す。
ちらりと静雄を見ても、彼は黙々と今度はベッドの掛け布団を引っぺがし、毛布をせっせと敷いている。
流石大人だけあって、子供のパンツとブラなんか気にも止めてない。
帝人が自意識過剰なだけだったらしく、返って恥ずかしい。

(……うううう、この人、静雄くんが大きくなっただけなのに、……何か疲れる……)

ちょっと前までは、自分の近い未来が知りたかったから、親しくなろうと努力を重ねた。
一目会えたり挨拶できただけで、飛び上がって喜んだ過去が懐かしい。

用事も済んだし、料理に戻ろうと内心大きくため息をつきながら、コタツ台の上に戻された、閉じてあったノートパソコンとマウスを小脇に抱える。
この家に料理本は一冊も無く、帝人の料理レシピは、全てこのパソコンのフォルダの中に入っている。
それを持って部屋から出ると、もう仕事を全部終えた静雄がのっしのっしとやってきて、彼女を追い越して先にキッチンへと向かってるし。

「……へ?……」

小走りであわあわと彼の背中を追いかければ、静雄は迷う事なく冷蔵庫の横の下棚を開け、45リットル入る、ゴミ出し用の大きなビニール袋を取り出し、破った包装紙とビニールゴミを片付ける為、居間へと戻っていく。
途端、帝人の背筋がぞくっと寒くなった。

(なんでこの人、……ゴミ袋の収納場所まで知ってるの……!?)

世の中には、記憶力がとても良い人がいる。
帝人だって遠い過去を思い起こせば、三歳ぐらいから正臣と畑の畝を飛び回り、田んぼや川で泥だらけになって遊んだ記憶がぼんやりとあるし。

そう、きっと静雄さんは、静雄くん時代に見た事を完璧に覚えていられるぐらい、抜群に記憶力が良いだけなのだろう。

(まさか……ね、あの人に限って……、まさかね……)

断じて『ストーカー』という項目に分類される、身の毛もよだつ程恐ろしい変態では無いはずだ。

と思いつつも、野菜を取り出す時に冷蔵庫の扉とか、鍋を出す時の棚の下とか……、つい盗聴器や隠しカメラを、ごそごそ捜してしまう帝人だった。


その頃、静雄は……というと。
(トムさん!! 俺、やりましたぁぁぁぁぁ!!)

見る気のないTVの真ん前で胡座をかき、タバコを咥えながら、ひたすら彼を相手にひっそりメールをやり取りしていた。

『俺、とうとう帝人に、今日夕飯誘われました!!』
≪でかした!! これで一歩前に進めたな♪≫
『トムさんのおかげっす、ありがとうございます!!』
≪おう、この調子で頑張れよ!! 明日の報告楽しみにしてるからな♪≫
『うすっ!!』

トムは過去、確かにこうアドバイスをした。

≪兎に角、帝人ちゃんみたいな田舎育ちで純朴な女の子はさ、人とも希薄な繋がりしか保てない大都会で生活するのって、孤独感が凄いと思うんだ。
だってさ、寂しいからチビなお前がわざわざ呼ばれてる訳だろ?
年頃のしかも女子高校生が、毎晩好き好んで子守なんて、ありえないって普通。

だからさ、ここはお前が頑張らなくっちゃな。
子供静雄が今占めてる時間をさ、段々と大人なお前と過ごす時間に移行していくんだよ。
兎に角、帝人ちゃんに甲斐甲斐しく尽くせ。
彼女は義理堅いから、その都度絶対お礼してくれる。
そしたらまた、尽くして尽くして尽くしまくれ。

そのうちきっと、一人暮らしのお前を夕飯とか家に呼んでくれるようになる。そしたらしめたものだ。
子供の静雄より、大人なお前の方と過ごす方が安心できるって、そう彼女が思ってくれるようにまた尽くしまくれ。
そうやって二人っきりの時間を段々増やしていけば、きっと、自然にお前達二人は恋人関係になれるさ♪≫

人を見る目あるトムの、対帝人アドバイスは、……確かに的を得ているだろう。
だが、語った相手が悪かった。

世間の常識から逸脱して生きる男、それが平和島静雄である。
彼が合い鍵持っていたのを良い事に、今、こんな暴挙に出ているなんて。

夢にも思ってないトムは、静雄とのメールを終えた後、ウキウキと足取り軽くサイモンと店長に彼の恋の進展を教える為、露西亜寿司に向かうのだった。

アーメン。