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【ジュダジャ】あの時の答えを今、言うよ【シンジャ】

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「あーあ……めんどくせぇな」
 大学受験を控えた高校三年生の冬。
 志望している大学に願書を持ってやってきたものの、少年はいきなりやる気を消失していた。
 やっとつまらない高校生活から解放されて自由になれるかと思えば、当然のように進学を強要されて辟易した気分だった。大学なんか行かなくても生きていけると反論してみても、ならば高校を出てすぐに就きたい職業があるのかと問われると、別にそんなものも無い。将来の目標もなくただフリーターになる位ならば、とりあえず大学に行っておきなさいとクラス担任に懇願される形で、願書提出締め切りの日にこうして有名国立大の門を潜ったわけだった。
 競争相手がいないのも考えもんだな、と思う。
 昔から勉強でも運動でも、適当にこなしたつもりでも人並み以上の成果を発揮していた。他人に言うと嫌味か皮肉にしか聞こえないだろうけれど、逆に何をしても簡単に出来てしまうからつまらなくて仕方が無かった。何かに夢中になったこともなく、十八年間もの年月を無気力に生きてきた。これからの未来も特に変わることなくつまらないものなんだろうと諦めている自分がいるのだ。
 夢の中に行ければいいのにな、と半ば冗談のような気持ちで思案する。
 小さい頃から定期的に見続けている夢があり、これがやけに良く出来た世界観をしているので、何気に続きを見るのを楽しみにしていた。それに比べて、現実のつまらなさと来たら。
「なんか面白いことねぇかなー」
 まっすぐ願書を出して学校に戻るのも癪なので、のんびり散歩がてらにぼーっと構内を歩いていたら、いつのまにか周囲の景色が緑に満ちていた。何処かの森の中に迷いこんだのかと錯覚するほど、都心とは思えない壮観な光景だった。敷地面積のでかい学校だとは聞いていたけれど、幾つかの校舎を越えて辿り着いた場所はまるで太古の森を髣髴とさせる豊かな自然に溢れており、圧倒されてしばし足を止めていると、背後にはいつのまにか人の気配があった。
「あれ。きみ……」
「あぁ?」
 声を掛けられて億劫に振り返ってみれば、重そうな書類を抱えた白衣姿の男がジッとこちらを見ていた。
 陽に透けて透明にきらめいて見える白銀の髪と、色素の薄い白い肌、緑掛かった黒い瞳の下にうっすらと浮いているソバカス。初めて見る顔のはずなのに驚くほど懐かしいと感じる不思議な既視感。
「…………?」
 渡り廊下に立ち止っている男と、中庭に立ち尽くしていた自分とで、たっぷりと一分間は見詰め合っていたかも知れない。互いにポカンと呆けた面を晒しあっていた中で、先に正気を取り戻したのは此方だった。
 あいつ、夢の中に出てくる奴とそっくりなんじゃねーか?
 過去にも例のある事柄だった。物心付いたころから見続けている、あの夢だ。
 その中で自分は「マギ」と呼ばれる特殊な能力を持った稀有な魔法使いという設定だった。現代よりも大分以前のユーラシア大陸から東南アジア辺りが舞台となっている世界観で、煌帝国やらレーム帝国やらシンドリア王国やら聞いたことのない国名がわんさか出てきて、夢にしてはよく出来た物語だと覚醒するたびに感心していたのだ。けれど、それ以上に驚くのは、ごく稀に夢の中で見た事のある人物と瓜二つの容姿を持った人間が現実世界にも存在している事だった。
 あいつは確か、バカ殿もといシンドバッドの隣に、いつも金魚の糞みたいにくっついている眷属、ではなかっただろうか。名前は確か、ジャーファル……だったと思う。バカ殿がそうよく呼んでいた。尤も夢の中の話なので、現実も同じ名とは限らないけれど。
 見掛ける時はたいてい緑の布みたいな装身具を被っていたから、素面だと幾分すっきりしているのに反してどこか幼い印象を受けた。けれど、絶対に見間違いではない。他人の空似だと無視できないレベルの胸騒ぎを覚えていた。
 何故こんな所であいつに会うのだろうと奇妙な偶然に瞠目していると、向こうもようやく我に返ったらしく、ハッとしたように瞬きをした。当然ながら此方の夢の話など知る由も無い奴は、しかしよいしょ、と渡り廊下の欄干に荷物を置いて、階上からノソリと身を乗り出した。
「きみ、受験生ですか?」
 手の平を口元に当てて、少し距離の開いている自分たちの間をカバーするように声を張り上げる。
 ブレザー姿に願書の入った封筒を持っているという井出達から結論を導き出したらしく、男はニコリ、と見た者を安心させるような笑みを浮かべた。
「私はこの大学院に籍を置いている者です。もしよかったら願書を提出する場所までご案内しますよ」
「……いーのかよ」
「はい。この大学は少し入り組んでいますので」
 表情を微かに苦々しいものに変えた奴は、その代わり、と欄干に置いた荷物を再び抱え直した。
「コレを私の研究室に置いてからでいいですか? すぐそこなので」
「べっつに、かまわねーけど」
「すみません」
 ぺこんと会釈程度に頭を下げた後は、デフォルトみたいないつもの穏やかな笑みの表情に戻った。
 特に意識した訳ではないのに、吸い寄せられるように足が動き出す。トン、トン、と軽い調子で渡り廊下にのぼると、サラサラと揺れている濃灰色の髪の傍らに並んだ。隣り合ってみて初めて自分とこいつはそんなに背丈が変わらない事に気が付けば、少しだけ悔しくなる。夢の中では並んで歩いた事なんて無かったし、いつも遠くから見かけるだけだったし、年齢不詳の童顔だからもっと身長差があってもおかしくないと思ったけれど、黒目がちの瞳を容易に覗き込めるような位置に己の視界があるのが屈辱だった。だが、此方はまだまだ成長期なのだからこれからもっと伸びるのだろう。そう結論付けて無理やり自分を納得させ、小さな苛立ちの種を噛み殺した。
 隣に立った事を確認した奴は、再びニコリと人の良い笑みを浮かべて歩き出した。誰かの隣に立って歩くのは好きじゃないのに、こいつと一緒だと余りそれが気にならないのは、こちらを気遣って歩くペースや歩幅をさり気なく合わせてくれるからかも知れない。
 奴の言った通り、研究室とやらはすぐ近くにあった。
「ここです。ちょっと失礼」
 一言断ってから奴……現在の名前は知らないけれど、固有名称が無いのは不便なので、とりあえずジャーファルと呼ぶ事にする。ジャーファルは両腕で持っていた荷物を右足の太腿に乗せてバランスを取り、片腕を使って器用にドアを開けた。
「んだよ、言ってくれれば持ってやったのに」
「え? ……あ」
 折り重なった紙の束が万が一崩れたら厄介だと思い、太腿の上の書類をババッと奪い取ってスタスタと室内に入ると、背中を丸めてドアを支えていた奴は呆気が取られたみたいに此方の顔をまじまじと見てきた。あんまり間抜け面をしているから、若干居心地が悪くなる。
「何か文句でもあんのかよ」
 礼を言われこそすれ、苦情を向けられる謂れは無いと睨み付けると、すぐにジャーファルは表情を隠して穏やかに首を振るった。
「いえ、ちょっと意外だなぁと思って。優しいんですね」
「はぁ?」
 見当違いも甚だしい礼を言われて剣呑と眉を顰める。